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山口百恵 単発 小レビュー集 


◆ ささやかな欲望
◆ 白い約束
◆ 横須賀ストーリー
◆ 美・サイレント
◆ 愛の嵐
◆ 謝肉祭



cover ささやかな欲望  (75.09.21/第5位/32.6万枚)  詞:千家和也 曲:都倉俊一 編:馬飼野康二
 75年は初のバラード「冬の色/伊豆の踊子」が自己のセールス記録を塗り替えたところから、アップテンポの性典路線から一転、バラード色・文芸色の強いシングルが並んだ。そのきわめつけが、これ。山口百恵初期の傑作。
 それまでの山口百恵は、どちらかというと、「大人たち」の作る歌を、なにをどうということもなくお仕事として淡々と歌っていたアイドルシンガーだったのだけれども、「冬の色」「湖の決心」とじりじりと成長を見せ、この歌では、露骨なまでの感情を表出している。
 「私はあなたを 悪者にしたくない だからひっそりと 離れてゆく」のほとんど泣きながらといった感じの潤んだ絶唱に、「なにかを表現したい」という彼女の思いがひしひしとつまっている。
 一年前に、棒ッ切れのように「あなたに女の子の一番大切なものあげるわ」と歌っていた歌手とは、到底思えない。上手い。凄みすらある。
 ただ、彼女の力強い歌唱とはうらはらに、詞・曲は、具体性があまり見えない。当時のドラマや映画で彼女が垣間見せたドラマ性の延長という感じで、まあ、ぶっちゃけて言えば、昼メロ調で、悪くはないのだけれども、表現の核が見えず、彼女の迫真の歌唱に負けてしまっている。
 もうちょっと違う歌も彼女は歌えるはず――。恐らくスタッフもそう思ったのだろう。この曲は、デビュー以来の、作詞 千家和也・作曲 都倉俊一コンビの最後のシングルになった。
 この時点で、山口百恵、16歳。恐ろしい子っっ。
 阿木・宇崎コンビと出会うのは、この曲からわずか半年後のことである。
 ただ、この曲を聴くと、その後宇崎・阿木コンビに出会わなくても、歌手として大成するポテンシャルは持っていたんだな、というのがわかる。
 ちなみに、カップリング「ありがとう、あなた」は主演ドラマ『赤い疑惑』の主題歌。こちらもドラマにあったドラマチックな佳曲。70年代臭がぷんぷんです。
 今では考えられないことだけれども、当時はタイアップソングを無関係のメディアで歌うのはタブーだったので、彼女主演のドラマ主題歌、映画主題歌の多くはカップリングに収録されている。

(記・2009.02.07)


cover 白い約束  (75.12.21/第2位/35.0万枚)  詞:千家和也 曲:三木たかし 編:萩田光雄
 「ささやかな欲望」でボーカリストとしての埋蔵量の莫大さを披瀝した彼女の続いてのシングル。三木たかし作曲、萩田光雄編曲と百恵サウンドに新たな血を入れた新境地の一曲――になるはずだったのだろうけれども、なんか、こう、仕上がりとしては、いつもの地点に落ちてしまったような。
 サウンド自体は洗練されてて、百恵の歌唱も実にクールネス、今までになくスリリングだ。雪吹きすさぶ厳しい原野が見えるようなイントロに「さらばシベリア鉄道」をきゃんといわせるポテンシャルは、あった――の、だ、けれども、アレ?という。
 つかですね、これはもう、はっきり言いますけど、千家和也がよくないっっ。結ばれない二人の、冬の白い原野を舞台にした心中行、といった感じの旧態以前とした、嘘臭い、おじさんの喜ぶ「プラトニック・ラブ」の文芸路線なんだもの。
 ま、これに限らず、千家和也の作った山口百恵の歌って、いかにも男に都合のいいエロ妄想で、今となってはイラッと来るのだ。「大事なものを捧げ」られたり、「なにをされてもいい」ことにされたり、女性側にリスクを背負わせるだけ背負わせて、自分(男)は安穏とお茶なんかすすれる立ち位置にいるんだもの。女が堕ちるなら自分も堕ちなきゃ、男がすたるぜ?
 てわけで、今作も「純潔」とか「処女」って言葉にハァハァする人用って言うか、そういう感じで、心中するしかないほどドロドロとにこみいった情愛の世界のリアルがまったくない。愛欲を昇華し、肉の濁りを洗い流すからこそ、心中は白く清く美しいのだと私は思いますがね。ガキのプラトニックラブで心中してたまるかってんだ。このテーマなら、自らも色に溺れなきゃ、嘘になる。
 ポジションとしては「横須賀ストーリー」になれなかった意欲作といったところか。カップリングの「山鳩」は主演映画「絶唱」の主題歌。

(記・2009.02.07)


cover 横須賀ストーリー  (76.06.21/第1位/66.1万枚)  詞:阿木燿子 曲:宇崎竜童 編:萩田光雄
 阿木・宇崎・百恵のゴールデントリオの始まりとなった楽曲。
 76年4月発売のアルバム「17才のテーマ」の収録曲――ということで阿木燿子・宇崎竜童コンビへのオファー。提出した4曲のなかに、これが入っていた。 出色の出来であることから、アルバム収録を見送り、シングルとして発売。結果、彼女のシングルの最高セールスとなった。
 宇崎竜童、酒井政利、川瀬泰雄、三氏ともに「半年寝かせた」と発言しているので、76年年頭には出来上がっていたのだろう。続いて8月発売のアルバム「横須賀ストーリー」では早くもA面全てが阿木・宇崎コンビの担当となっている。
 「ささやかな欲望」以来「白い約束」「愛に走って」と、曲ごとに表現力が尻上がりに向上してきた百恵。成長した彼女に見合った、新たな作家を模索していた75年の山口百恵プロジェクト。 その頃、「スモーキン・ブギ」「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」と大ヒットを連発していたのが宇崎竜童率いるダウンタウン・ブギウギ・バンドだった。
 川瀬泰雄ディレクターはパロディーソング「帰ってきた港のヨーコ」を作るほど彼らがお気に入り、百恵もライブで彼らの歌を歌ったり、特に「涙のシークレットラブ」がお気に入り。 阿木・宇崎コンビは当時既に研ナオコ「愚図」、和田アキ子「Set Me Free」など作家としての活動にも入っていて、じゃあ、曲書いてもらおうか、という話になり、見事にホームラン。 今振り返ると、色んな人にとって、いいタイミングだったんだろうなぁ。
 もうイントロからして別次元。続いて歌いだし「これっきり」のリフで、今までリリースしてきた山口百恵の全ての楽曲が吹き飛んでしまう。
 生まれ育った横須賀の街を背景に、想いが溜息のようにこぼれる山口百恵。 詞、曲、アレンジ、歌唱、全てが渾然一体となり、ひとつの風が、光が、時が、恋が、そこに封じ込められていた。これが表現というものだ。
 この後も、阿木燿子と宇崎竜童のふたりは、自らの思いを仮託するかのように、過激でメッセージ性の強い歌を山口百恵に叩きつけ、山口百恵もそれを見事な表現へと昇華していく。傑作はこれだけに留まらないのだ。

(記・2009.02.07)


cover 美・サイレント  (79.3.1/第4位/32.9万枚) 詞:阿木燿子 曲:宇崎竜童 編:萩田光雄
 79年作。サビ前「Be silent」の連呼で聴衆を注意喚起し、サビでおもむろにマイクを離して歌う山口百恵が話題になったシングル。
 「あなたの○○○○がほしいのです」
 はたして、百恵は何をいっているのか。
 その質問に百恵自身は「ときめき」とか「きらめき」とか、答えていたというが、これは正解ではない。
 「ひと夏の経験」リリースの頃、 「歌詞にある『女の子の一番大事なもの』はなんだと思いますか」という質問に対して「まごころ」と応えたのと同質の、意図的な誤答だ。彼女は、わかっていて、はぐらかしいる。
 当時、吾妻ひでおの漫画で、「○○○○の部分に『カルピス』とか『ソーセージ』とか、入れないでください」というギャグがあったが、 この○○○○には、そういった言葉、セックスや男性器をあらわす卑猥な隠語が、もっとも相応しい。 でなければ、続く「女のわたしにここまで言わせて」につながらない。
 この歌は、かいつまんでいえば、自分に気のなさそうな男に向かって、卑猥な言葉を口にして気をひこうとしている女の歌である。
 あと10年も経てば、「東京ラブストーリー」のリカのごとく「セックスしよっ」とあっけらかんといえるのを、まだ「○○○○がほしい」としかいえないところが、時代という感がある。 が、あえて伏字にしたほうがより、淫靡であるな。
 表現の俎上に登らせることの難しい放送禁止用語をリップシンクにしたことで、実際の言葉よりも、ぐっと淫靡な印象になる。 作詞の阿木燿子からしたら全て計算なのだろう。ほんとうによくできている。
 阿木燿子は、この時期からしばらく、パートナーの宇崎とともに、あえて歌詞のテーマに相応しくない、「放送上不適切」といわれかねない過激なテーマ(――堕胎やら、心中やら、ドラッグパーティーやら)を表現するようになるが、その過激なシリーズで「美・サイレント」はもっともメジャーな曲といえるかもしれない。

(記・2006.5.27)


cover 愛の嵐  (79.6.1/第5位/32.8万枚) 詞:阿木燿子 曲:宇崎竜童 編:萩田光雄
 これは、情後の歌だ。
 激しいセックスの後の浅い眠り――彼女は、夢を見る。薄紅のドレスを着た他のだれかが隣にいる恋人を手招きしている夢を、見る。
 夢にうなされる彼女に心配そうな声をかける男。目をさます彼女。
 さきほどの情事の、あなたが首にまわした指がきつすぎたみたいよ、と彼女は応える。
 応えながら、ひとときの夢の名残が、彼女を嫉妬の炎に駆り立てる。
 しかし、その嫉妬は、言うなれば、杞憂だ。ありもしない幻に彼女は嫉妬しているに過ぎない。
 だから、サビは「ジェラシーストーム」の連呼で、燃え上がったと思ったその次の瞬間には、眩暈のように、一気に失速する。 そして「心の貧しい女だわ」と、自虐へと転ずる。
 セックスの後の甘いひと時すらも幸福にひたれない、つまらない猜疑心にかられる愚かな自分――と。

 「横須賀ストーリー」以降、阿木燿子は、山口百恵のシングルで、芝居の一幕のような緻密な情景と心理の描写を行ってきたが、 この時期の「愛の嵐」、「美・サイレント」あたりになると、複雑かつ淫靡になってきて、 ちょっと一般性には欠けるのかな、と一方で思ったりもするけど、わたしは大好きだな。
 ちなみに。当初、この歌のテレビでの歌唱で、山口百恵は首筋に蝶の刺青(――風のペインティング)を施していた。これは「首にまわした指が〜」からのリンクなんだろうな。 振り付けも、ひら歌では、手のひらで首を隠すようにして歌っていたのが、サビではらりと髪の毛をかきあげるように手を払うとそこに――蝶の刺青が、という演出になっていて、 非常に性的なこの歌の暗喩として見事に機能していた――ってか、ものすごエロカッコよかったのだけれども、 過激すぎるということで、その演出はほんの数回しか披露はなかった、という。沢田研二の鉤十字の軍服による「サムライ」とともに幻の映像である。
(記・2006.5.26)


cover 謝肉祭  (80.3.21/第4位/28.6万枚) 詞:阿木燿子 曲:宇崎竜童 編:大村雅朗
 「しなやかに歌って」リリース後に三浦友和と恋人宣言をした山口百恵。 まだ正式な結婚・引退宣言がまったくなされていなかったにもかかわらず、 以降山口百恵のシングルは「愛染橋」「ロックンロール・ウィドウ」、「さよならの向こう側」、「一恵」と、結婚・引退を意識した楽曲が続くようになる。
 そのなかで、「結婚」のイメージが唯一ないシングルが、この「謝肉祭」である。 山口百恵の全シングルの中で、このシングルだけ、ちょっと毛色が違う。
 いつもの宇崎・阿木コンビなのだが、「ツッパリロック歌謡」路線でも「等身大の山口百恵」路線でもなく、いわゆるエキゾチック歌謡路線。 当時のCBSソニー酒井政利班はジュディー・オング「魅せられて」や、久保田早紀「異邦人」などの海外シリーズでミリオンヒットを飛ばしていたことを考慮するに、 その番外編、といった感じのシングルといっていいだろう。「謝肉祭」は強いていうなら「スペインのテーマ」かなぁ。
 ツッパリ路線は「プレイバック part2」を頂点に、前々作「愛の嵐」で、 全ての手札は出し作られていた感が漂っていたので、今後の山口百恵は異国情緒路線で、という思惑が、もしかしたらひそかにあったのかもしれない。 そして、その時はジュディや久保田早紀の海外シリーズのように、大ヒットを視野に入れた一大プロモーションを敢行したかもしれない。
 とはいえ、公私共に山口百恵は、当時既に結婚・引退にむけて大きく傾いていた。 もちろんそうした展開が待っているわけもなく、この「謝肉祭」も、当時の山口百恵にしては平凡な成績しか残していないし、楽曲的に見ても、その後の山口百恵のどこに繋がるというのは、ない。
 ただ、後年、百恵の大ファンの中森明菜が、ツッパリ歌謡→エキゾ歌謡という変遷をたどるのを見るに、その試金石として「謝肉祭」の役割は果たしたかな、 と思ったりもする。
 一時ソニーのつまらない自主規制で、聴くことが困難になったシングルであるが、山口百恵の堂々として力強い歌唱が迫害を受けながらも凛と生きるジプシーの気概のようにも聞こえる魅力的な一曲である。

(記・2006.5.22)


2007.09.12 編纂
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