◆ ら・ら・ば・い 〜優しく抱かせて〜 ◆ ANGEL VOICE ◆ 優しい世界 ◆ MINAKO with WILDCATS 「WILDCATS」
この曲、間奏と後奏に菅野よう子ライクなクラシカルなシンセストリングスとオペラ調のハイトーンスキャットが挿入されており、しかにもアニメソングらしい 壮大さをかもし出している、の・だ・が。 はじめてCDでこの部分を聞いた時、私はてっきりどこかの別のプロのボーカリストが歌っているのだと、思っていた。 ら、テレビでこの曲を歌っている本田美奈子を見てびっくり。 美奈子本人が歌っとるやんけっっ。 Youtube 「ら・ら・ば・い 〜優しく抱かせて〜」 こんな唐突にボーカルをシフトチェンジさせる。無茶だろ。 しかし美奈子はその無茶をやり遂げていた。 そのあたり、実に美奈子的な一曲といえる。 わたしたちに馴染み深いポップスとクラシカルなサウンドとの融合。 ミュージカルでの活動が活発化して以降、本田美奈子は音源制作に関してはそのベクトルに向かってひた走っていたのだが、 それが最もいい形でミクスチャーされたのが、「ら・ら・ば・い」や「風のうた」「ナージャ」などアニメ・タイアップ系の楽曲だったというのは、皮肉としかいいようがない。 (記・2007.07.04)
90年に発売予定だった未発表アルバム1枚にベストを1枚、さらに既発売のDVDを編集したベストDVD1枚という3枚組布陣。ごった煮だなあ。ひとまず未発表アルバムのdisc.2だけの話をするか。といっても、「売れなさそうだからお蔵入り」そんな楽曲が素晴らしいわけがない、そんな現実を叩きつけらたというか。こんな名曲が隠れていたのか、という驚きはまったくなかった。 そもそもアレンジが絶妙に安っぽいんだよね。元々制作費が安かったのか、90年という時代のせいなのか知らんが、ぺらっとした打ち込みメインで、今聞くにはちとつらい。ワイルド・キャッツでクラッシュしてソロアーティストとしてやり直しの1枚、となるはずだったのだろうけれども、作品から方向性は見えないし、作家陣も今までのラインから一新しているのものの、狙いは見えない(あ、不思議と当時の中森明菜と被っているな。都志見隆、佐藤健、関根安里、許瑛子とね)。デビュー以来やたら力みまくった彼女のボーカルがここでは程よく抜けているが、それは成熟というよりも逡巡とうつる。わたし、歌手として、これからどうなるの、みたいな。「これを表現するんだ」みたいなモノが全体から感じられず、まぁ、お蔵で当時の東芝的には正解だな、としかいいようがない。 レコードアーティストとしてはつくづく不遇な人だったよなぁ、本田美奈子って。 死後、それまで所属したレコ社五社のうち四社から未発表ニューアルバムがリリースされた彼女だけれども、もういいでしょ。それとも最後にユニバーサルからも出しちゃう ? (記・2007.05.18)
まだまだ出て来る本田美奈子の未発表音源。今回はバンダイ・ミュージックエンターテイメント時代の楽曲を発掘。 実質本田美奈子はバンダイ時代、96年のシングル「Shining eyes」しかリリースしなかったけれども、その後シングルリリースの企画を立てていたようで、今回収録されたのはその前後に録音されたもの。「Shining eyes」のセールスの惨敗状況やら、当時の本田美奈子のミュージカル主体の活動傾向などから、勝ち目がないと読んだのか、お蔵入りになってしまったようだ。 ちなみに00年にバンダイミュージックエンタテイメントは事業不振により解散。このミニアルバムはバンダイの版権管理を行っている系列会社エモーションから権利を借り、日本クラウンから発売されている。 楽曲はどれもいわゆる前向きJ-POPというか、結構あたりさわりない出来。アルバムの系譜でいうならば95年作品の「晴れときどきくもり」からエスノ臭、アコースティック臭を抜いた感じ。存在自体が"未完"だった「心をこめて」とはまた少し意味合いが違うのだろうけれども、同じような食い足りなさが残った。お蔵になるにはそれなりの理由があるのだなぁ。おまけDVDも、ホントおまけという感じ。 そのなかにあってバンダイME解散後にMDによるダウンロード販売した経緯がある「満月の夜、迎えに来て」が一番の目玉だな――と、思って歌詞カードを見ると、おおっっ、作詞・作曲が本田美奈子だぞ。いわゆるハイエナジーなディスコモノで、「マリリン」時代の本田美奈子がお好きな方にはたまらないか、と。久々にカッ飛んでます。そういえば「Shining eyes」も美奈子作曲で、クールなディスコチューンだったよな。美奈子、もっと作曲させると面白かったかも。 そんなわたしは、ポップスの美奈子、ロックの美奈子、ミュージカルの美奈子、クラッシックの美奈子だと、ポップスの美奈子を取る人間ですとも。こういう自作ディスコ路線で1枚アルバムがほしかったな。まぁそれ以前に、リリースに足る支持がなかった、というのが当時の実際なんだろうけれどもね。 むむむ。なんだかもの悲しくなってまいりました。 (記・2007.04.05)
ラ・ムー取り上げたならこっちも取り上げなきゃなんめーべ。というわけで、MINAKO with WILDCATSのファーストアルバム。88年8月リリース。 こちらも意外や意外フツー、というか、もしかして良作? アルバムに統一感がある。全曲の作詞を松本隆が担当しているせいか、ハードロック色が強いのに、青春の光と影の漂う切ない雰囲気がある。「カシスの実」や「School Girl Blues」など、地味に佳曲。松本隆の作品って、どうやろうとも品が出てしまうんだよね。 本田美奈子は元々歌謡ロック傾向の強かったわけで、そこでロック色のより濃くなった前作「Midnight Swing」からさらに発展してワイルドキャッツヘと、って、ラ・ムーとおんなじようなこと書いているよ。 ま、そういうわけで、音楽的にいきなり別枠に飛躍したってわけではなく、成長の過程を追うとここにたどり着くだろうな、というのは、わかる。バンドブーム到来を受けて、HM・HR色のより強いハードポップの美奈子、と。それにどれだけの需要があったのかはやっぱり謎だけれども、とにかく美奈子は疾走したわけだ。 美奈子は、ハードロックするには、ボーカルが細いのが弱点なんだけれども、改めて聞くとその弱点が魅力に聞こえる。 本田美奈子というのは、どの音楽ジャンルに挑んでも、本格的になるには、あと半歩届かないところがあるのだけれども、そこがなぜか魅力になる、という不思議な歌手だ。届かない空白の数センチが、切なさになる。 ー―と、ここまで書いて、先日彼女の一周忌を迎えたことにふと気づく。冥福を祈る。 (記・2006.11.09)
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