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野阿梓「5月ゲーム」 感想

(1992.07.15/早川書房)


まず表題作「5月ゲーム」。
これってネタ元はダッカ日航機ハイジャック事件だよね。
ハイジャックされた客貨宇宙船。緊急着陸した惑星は偶然クーデターの真っ最中だった。二転三転するドタバタ政治劇。
そこに偶然乗客として居あせた秘密政治結社「狂茶党」のテロリスト、レモン・ティーは……!?というお話。
原案・野阿梓による佐藤真理乃の漫画作品が先行してあったせいか、文章もあらすじもわかりやすいです。いつもの野阿作品ような難解さ、読みながら疑問符の洪水状態になる感じはなかったです。純粋に娯楽作品として楽しめました。
とはいえ内容はないようで、レモンは相変わらず美形で頭よくて強くて非情でカッコいいぞ、というのだけが残りました。
あと、政治ってめんどくさい、ってのも。

「妖精の夏」
こちらはいつもの野阿梓。
叙述のあざとさは相変わらずで、語彙の散乱というか、絢爛豪華な言葉の洪水というか、鮮烈なイマジネーションの嵐というか、この目くらましにうっとりしている間にラストを迎えてしまったというか。そんな感じ。
でもって最後の謎解きの段になっても、やっぱりまったく意味がわからず、たぶんこれは「メタフィクション」なんだよねぇ、と、恐る恐る解釈する私。
現実から夢へ、さらに夢から夢へ。それぞれのお互いの次元があたかも侵食しあっているかのように、読者に違和感を感じさせることなくなめらかに次元を滑りこませる、その部分は特にものすごい。
読んでいると、谷山浩子の歌のように現実感は溶解し、エッシャーの階段ようにどこまでも歩いても果てることがないような気がしてくる。
ただ、読後に「結局何がいいたいの、この人は」という気持ちは残る。いまいち掴みきれないんだよね。なに考えているかわからないというか。
ネタ元も高尚すぎてよくわからなかったですし。まぁ耽美のヒトって元々そういうものだからいいのかもしれませんが。求道者っていの。
筒井センセはこの人の作品をどう読み解くのかなぁ、とチラッとおもった。

2つの作品を並べてみると、この著者は本気100%で全力疾走して自己の思想を追い求めるよりも出力50%くらいでエンターテイメントで流した方が作家として一般性を得られるんじゃないかな、と思った。
つまりは『銀の三角』みたいな高尚な作品だけでなくその合間に「海のアリア」や「11人いる!」も描いている萩尾望都を参考にしていただきたいな、と。
ま、大学の図書館の司書という本業があっての作家活動なのだから、別に売れる算段など立てる必要はないんでしょうけれど、わたしとしてはキャラ萌えで成立する野阿梓作品も読んでみたいな、と思うので。

しかし『5月ゲーム』とはどういう意味なんでしょうか。May game……、なんとなく「May day」と関係あるのかなぁ、と思いましたが、不勉強な私にはよくわかりません。


2004.07.23
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