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長野まゆみ「雪花草子」

どっから切っても「やおい」

(1994.06.20/河出書房新社)


デビュー時の数作は読んだものの、無理繰りの旧字体・旧かなといい宮沢賢治志向といい、どうにも才気煥発やおい少女の若気のスノビズムが鼻についてその後自然と手に取ることはなくなってしまったのだが、 最近、装丁が綺麗だったのでなんとはなしに手にとって読んでみた。 …………ら、これっておもいっきり「やおい」ぢゃねゃかよっっ。思わず真夜中に一気読みしちゃったじゃないかぁッッ。

そういえば高校の頃、同級生と彼女の作品の話をしていた時に「でも長野まゆみって、今『JUNE』そのものみたいなのばっか書いているんだよねぇ」みたいな話を聞いたことがあるが、なるほど、確かに奥付の発行日を見るに間違っていない。このあたりから完全「やおい作家」に転向していたのか、彼女。 それにしてもここまでまごうことなきやおいを書くようになっていたとはおニィさんは思いもよらなかったよ。もっと野阿梓みたいな高踏的なやおいなのかと思ったら、ズブだもん、コレ。
この作品は伝奇系和風中世JUNEっつうか御伽草子JUNE。頭んなかでは完全に木原敏江のキャククターになってました。ほとんど「夢の碑」のノリ。あぁ、エロい。

各作品を軽く解説。


「白薇童子」

女と見まごうばかりの美貌の少年琉璃若は母をさらった仇、白薇童子を討つために雷の山獄、鬼の宮処へ辿りつく。しかしそこに待っていたのは妙によそよそしく冷たい母、朱の葛といつでも討つがよいと泰然と構える美貌の主、白薇童子。 白薇童子の妖力が衰えるという冬至の夜、琉璃若はいよいよ討たんと白薇童子の寝所を襲うのだが……。

夜叉で半陰陽、見た目水も滴る美青年で平和を愛する白薇童子というキャラクターがエグすぎますぜ。萌えキャラとしかみれない。 それにしても「母子相姦」かつ「やおい」ってひと粒で二度おいしい作品なわけで。母子との相克とやおいって切っても切り離せないけれども、こうするとひとつでまとまるのかぁ、と妙に感心した。


「鬼茨」

申楽の一門の少年小凛と将軍家の家臣の生まれの少年朱央は身分を超えた親友である。しかし、弓遊びに誤って打ち殺してしまったネコが原因で2人は修羅の道への道連れとなる。 愛猫を殺された将軍の愛息、蜜法師は新たな戯れにと彼らを蹂躙するようになる。「恨みが募りついに鬼になった時はこの退魔の小太刀で我を討て」と小凛は肌身はなさず持していたそれを朱央へと渡すが……。

という、人として扱われない小凛がかわいそ過ぎな作品。
それにしても蜜法師の鬼畜ぶりが理解不能。なんで彼が狂っているのかいまいちわからない。したがってなんでこんな話を作者は作ろうとしたのかわからない。てことでただの妄想作品の範疇からはでられてないっぽい。 いたぶられる美少年にジーンとくればそれでオッケーってノリなんだろな。
ともあれわたしは「蜜法師、許さん。お前らが出来ないならわしが殴り殺してやる」という気分になったぞ。完全に逝っちゃってる蜜法師のトラウマにぐぐっと入りこんでいく形に話を作り変えていけばもっと長くもっと濃い、意味のある作品になるような気がするんだけれどまぁ。
それにしても小凛に的を持たせてウィリアム・テルバリの危険な弓遊びを興じたり、朱央の目の前で小凛を強姦したり、というのはお約束としといても、 生きている昆虫や咀嚼途中の唾液まみれの菓子や菓子に見立てた犬の糞を食わせるのはきちゃないですよぅ。



「蛍火夜話」

暗黒とりかえばや。将軍家の正室、二蝶に生まれた双子の世継。後々の禍根を絶つ為にと一方はその場で殺されることとなる。嬰児の殺害を任された侍女の苅安はしかし、その児を殺さず密かに川に流した。将軍家の児である証とともに。 それから15年後の夏、世継として育った蝉丸と二蝶、苅安の3人は、避暑に涼野という山間を訪れる。そこで美しい少女、蛍姫と出会う。彼女はまるで蝉丸を生き写したかのような、美しい容姿をしていた。苅安は帯留めの房に15年前嬰児に与えた証をみる。しかし、彼女は葦名の中将、藤の宮の姫君であるという。 それぞれ秘密を含んだまま、蝉丸の苅安2人は藤の宮の館に蛍狩りへと赴く。

って、なんじゃこりゃ――――っ。なんですか、このやおいでエロエロの話は。
藤の宮の館は「やおエロスの館」ですか。もうなんでもありですな。 蛍姫が少年なのはもちろん、藤の宮とは関係を結んでいるわ、藤の宮の正室の白萩とも通じているわ、っていうか実は白萩は男性なんだよね、というのもあったり、いやいや藤の宮は女性が愛せない人だっていうのもあったり、さらに藤の宮の妹御の蕗草と蛍姫ともエロースな関係だし、しまいには館に仕える下男風情とも蛍姫はつながっていたり、と、乱れてます。乱れ過ぎです。 おねぇさん頭痛いわ。蛍姫、魔性の美少年過ぎ。
それにしても、藤の宮が将軍家の落胤を少女として育てるにいたったのか、という根本のところがまったくわからないわけで。なんかそういったツメの甘さが「ただのヤオラーの妄想なのかな」と思わせてしまうのが勿体無い。これは「鬼茨」でも感じたことだけれども、これは尚一層。思いっきり大魚を逸しているぞ。
それに姦計に嵌り、蛍姫ととりかえられ世継としての寵を失った瞬間に蝉丸が自殺して終わりってのは、つまらない。つまらないぞ。ひたすら不幸な蝉丸くんがただカワイソなだけだし。もっとこれは話を大きくすべきでしょう。

今度は蝉丸が藤の宮のエロス館で女装させられ、蹂躙されまくられ、泥水のみまくって、悪の華を心に育てて、自分に成りすまして御曹司顔をしている蛍姫に最後リベンジするって流れにしなきゃだめでしょ。 でもって一方で、藤の宮の権力に対する欲望とか、いつかの日のためにと蛍姫を扶育したその仔細とか、この物語のフィクサーである彼の闇の部分をしっかりでっちあげる、と。
そうすれば最終的には引き裂かれた双子の愛憎のドロドロの果てにみな殺しってところまでいけるんじゃないか、と。これで「紫音と綺羅」のような一大やおい浪漫にはなるんじゃないか、と。って、そうならないと栗本薫のファンは納得いかないです。……ってなんだそりゃ。
わたしだったら、藤の宮と蛍姫がぐるになって、(女装して蛍姫を演じさせられている)蝉丸を(蝉丸のフリをしている)蛍姫の妻に迎えるようにしむけさせて、その末に将軍家がぶっ潰れるほどのカタストロフを起こさせるけれどなぁ。 (……と、しばし妄想するわたし)

それにしても蝉丸と蛍姫の簪を媒介した濃厚なくちづけのシーンにジーンと来てしまった私はダメですか、そうですか。



と、3作を読むに、デビュー時のストーリーがあるんだかないんだかよくわからない「実はいうと特に意味なし」系雰囲気モノの世界よりは明確なストーリーを背景に感じさせるし、 独り善がりっぽい旧字体・旧かなの読みにくい文章もここでは改めているし、全体でみると、彼女は以前よりも広い世界に出て小説家として成長したといえると思う。
が、その成長が「彼女がやおい系少女小説家にすぎない」ということを世間に露呈してしまったというのはファンとしては痛し痒しなんだろうなぁ、きっと。
彼女のファンには初期の作品を偏愛する者が多いと聞くが、こんな小説集を読むと、だろうな、と感じずにはいられない。
「あなたがいつまでも少女でいられないのと同じように作者だっていつまでも若書きでいられないんだからそのへんは許したれよ」
長野まゆみの初期作品のファンの人が目の前にいたら、そんなふうに肩をたたいてやろう。

とはいえ、この時点では物語のダイナミズムがはっきり感じられるほど弾けきってはいないわけで、その点に関してはやおい作家としても小説家としてもまだまだ。今はどうなっているのかな、と気になる。ちょっと他の作品も目を通してみよう。
それにしても、こんなモノ書いちゃ「栗本薫も森茉莉も読んだことない、知りもしない」なんて言い訳はもうできないでしょうよ。長野センセ。ヌハハハハ。



おまけ。

それにしても「水辺であの世でJUNE」ってこの三題噺はどうしてこうもオイラの心を惹きつけるのでしょうか。
水辺があの世とこの世のあわいで、そこに道祖神のように美少年(美少女でも可)が佇んでいるというこの構図。 密かに愛する榊原史保美の諸作はもちろん、長野まゆみも「魚たちの離宮」という傑作以来、このイメージをどっかで引きずっているところがあるし。 この「雪花草子」でも収められた3作ともに死の象徴、異界の象徴のように水辺の風景が描かれているわけで、やっぱりこのイメージってなんじゃらほい、と思ってしまう。 ホント理由がよくわからん。一回きちんと整理して分析するためにも自分でコレ系のやおい小説書いてみようかしらん。

2004.12.05
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