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川上弘美 小レビュー集


◆ 川上弘美 「蛇を踏む」
◆ 川上弘美 「神様」
◆ 川上弘美 「おめでとう」
◆ 川上弘美 「センセイの鞄」
◆ 川上弘美 「ハズキさんのこと」



cover ◆ 川上弘美 「蛇を踏む」  (96.08/文藝春秋)
 芥川賞受賞作品「蛇を踏む」をはじめ「消える」「惜夜記」を収録。
 ――って、これ気違い小説やん。たんたんととち狂っていて、乾いている。
 この作品から意味を探ろうとする行為は、多分無駄だ。
「蛇」がなんの暗喩であるのか。なぜ「家族」は消えるのか。「少女」とは。 その思索は、狂人の日記に意味を見出すようなものだと僕は思う。
 「若い女性の自立と孤独を描いた」(解説より)? 馬鹿げている。 意味なんてものはこの作品にはなにひとつ、ない。
 ただ、読みつづけているうちに溶解していく現実感、それを味わえばいいだけなのだ。だから僕はこの作品が好きだ。
 川上弘美が狂人であることはこの一冊で証明された。
 ただひとつ、川上弘美がただの狂人と違うところがある。それはなんというか、ある面においては世間様と折り合いついてそうな、そんな狂人なのである。
 隣近所に住んでいても、迷惑かけられそうにもない感じというか、玄関先でばったり顔を合わせても軽い挨拶とか出来そうな、週代わりのゴミ集積場の掃除とかちゃんとやってくれそうな、話の通じる狂人さんなのである。
 「惜夜記」は、夏目漱石の「夢十夜」、吾妻ひでおの「不条理日記」に比肩しうる不条理小説。傑作。
(記・2008.6.8)


cover ◆ 川上弘美「神様」  (98.09/中央公論社)
 彼女のデビュー作であるタイトル作を含む連作短編。Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。
 谷山浩子が数年前、この作品原作のラジオドラマをやっていたらしい、谷山浩子の「神様」という歌はそのテーマらしい、という前情報だけで読んでみる。
 童話だな、これは。質のいい童話。
 クマと一緒に川に遊びにでかけたり、梨畑に住む白くてふわふわしてよくわからない生き物の世話をしたり、お寺の池の中で河童の夫婦の相談を受けたり、花の広がる原っぱで叔父の幽霊と最後の午餐したり、 壷の中で生きる「コスミスミコ」なる小人とくだらないコイバナでもりあがったり、人魚に憑りつかれたり、「猫屋」のおばあちゃんの不思議な恋の話を聞いたり、そんなこんなのわたしの少し不思議な日常、という感じ。
 不思議なものが不思議なものとしてそこにある、なんであるのかどうしてあるのかまったくわからないけれども、あるんだから仕方ない、という受容の仕方が、この作家さんの特徴なんだろうな。
 谷山浩子の書くファンタジー小説のようなあじわい。面白いし、けっこう万人向けでもある。おすすめ。
(記・2008.6.8)


cover ◆ 川上弘美 「おめでとう」  (00.11/ 新潮社)
 恋愛掌編12作を収録。
 不条理系を期待していたので恋愛話には少々肩透かしだったけれども、これもまたいい。
川上弘美の会話体は、とにかく色っぽい。日常の中にある些細な会話、それがめっぽう色っぽいのだ。
 絶妙にずれたり、唐突に斬りこんだり、斬りこまれたり、言葉にならないところだけが空気のようになんとなく漂ったり、そんな人との会話の妙、それは人と人との淡いえにしの妙そのものなわけだけれども、それがあまりにも生々しく文章で表現されている。
 そこに確かに「人」がいるのだ。
 そんな彼女の会話体のすばらしさは、恋愛小説でこそ発揮されるのだろうな。人肌をやたらに感じる短編集でした。
 「神様」にでてくる壷に棲む妖怪「コスミスミコ」みたいな頼りのない幽霊モモイさんが可愛い「どうにもこうにも」、 桜のうろに棲みついてしまった彼と私の運命の恋を描いた「運命の恋人」、このあたりが私の趣味。
 それにしてもこの人、ホモはでないけれどもレズはさらりとでてくるのな。「いまだ覚めず」「春の虫」とか、フツーにレズでびびった。いわゆる女学生的なあわあわとしたレズ話が好きな人も、どうぞ。
(記・2008.6.8)


cover ◆ 川上弘美「センセイの鞄」  (01.06/平凡社)
 最近知ったひとつの事実。

 Q.女が男性社会で成功するにはどうすればいいのか。
 A.ファザコンになればいい。

 つうわけで、今日は、ファザコン小説のコレ。おっさん受けメガマックスな小説でありやす。
 谷崎潤一郎賞受賞。小泉今日子でドラマにもなったし、沢田研二で舞台にもなった。彼女の代表作。
 わたしはちょっと趣味じゃなかった。
 川上弘美らしい、淡淡として温かみのある文体は相変わらずいいし、作品に漂う空気もいいんだけれども、 メインテーマであろうセンセイとワタシの恋の道行きがぶっちゃけ、どうでも良かった。
 「老いらくの恋」にピンと来るかどうかってのがこの作品に入りこめるかどうかの分水嶺なような気がする。
 ショーミなところ、「純文学」なんてモノを読む層ってのは、「文学部在籍です」みたいな若いお嬢さんか、文学青年崩れのおっさんしかいないと、わたし、思うのですね。
 だからまぁ、純文マーケット的には、この作品、ドンピシャリなわけだけれども、まんま、こういうのが代表作となるのは、私ちょっと淋しいです。
 てわけで、若い娘ッコが好きなおっさんとファザコン気味のお嬢さんは、読めばいいと思うよ。
(記・2008.6.8)


cover ◆ 川上弘美「ハズキさんのこと」  (09.11/講談社)
 なにこれ。これじゃ、向田邦子じゃんよー。原稿用紙換算で10〜20枚程度の掌編が23作。新聞の隅っことか、高校入試の国語の試験とかに載っていて違和感のない、善人そうで、庶民的で、ちょっとだけ古めかしくって、ほのかな色気もあって、洒落とオチがきいてて、いかにもおっさん連中が「うまいなぁ」と唸りそうな――事実、むちゃくちゃ手練れてるんだけれども、作品がずらりと並んでいる。
 ある意味彼女を支える客層、ズバリ狙い撃ちな作品といえるわけだけれども、やっぱり、ちょっといい話でほっこりしてる(だけの)川上弘美なんて面白くないっ。「椰子・椰子」とか「蛇を踏む」とか、もっと不条理でぶっ壊れてて、無駄エロい川上弘美がみたいぞ。「センセイの鞄」みたいな退屈なファザコン小説がいちばん世間受けしまう現実が憎い。つまんない感じで小さくまとまってしまって欲しくないなあ、彼女は。作品自体は小憎らしいほど上手いので、いい話が好きとか平気な顔して言えちゃう人には、かなりオススメな作品。
(記・2010.06.14)

09.02.21 編纂
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