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和田加奈子について

美人声の悲劇

(『quiet storm』/1987.03.04/CA32-1392/東芝EMI)
(『esquisse』/1987.08.05/CA32-1511/東芝EMI)
(『KANA』/1987.12.25/CT32-5076/東芝EMI)
(『VOCU』/1988.11.06/CT32-5326/東芝EMI)
(『dear』/1989.12.13/TOCT-5598/東芝EMI)
(『デザートに星屑のゼリーを』/1990.09.27/TOCT-5825/東芝EMI)
(『約束のイブ』/1990.11.28/TOCT-5964/東芝EMI)


歌手の声にも色々なタイプがあるが、そのなかで「美人声」というタイプの声質というのがある、と私は思う。
上手い/下手という判断で言えば、上手いのだろうが、上手さが前面にでた歌唱ではなく、上手さの上にフェロモンがぱらぱらーーっと散っている、そんな感じの声質の持ち主。 上手い、というよりも声のスタイルがよい、といったほうがいいような声を持つ歌手、 声だけを聞くと、その声の持ち主はきっと抜群の顔やスタイルや、所作しているのだろうなぁ、と聞く者にイメージさせるような歌手だ。

例えていうなら、岩崎宏美や河合奈保子はべらぼうに上手い、基礎力のある声だが、決して美人声ではない。一方、中森明菜は彼女らほどべらぼうな基礎力はないが、彼女は徹底的に美人声だ。 杏里も美人声の系統だが、湿り気がすこしばかり足りない。惜しい。 宇多田ヒカルは案外美人声だ。 中山美穂や小林麻美はものごっつ下手だが、美人声だ。だからかなり得をしている。
こんな感じ。わかるかな。



そんなわたし的美人声歌手の中で「この人こそ、どうしようもなく美人声歌手だなあ」と思うのが、今回取り上げる「和田加奈子」という歌手である。
彼女、とにかく、美人声。もちろん抜群に歌が上手いのはもちろんなのだが、その上手さが色っぽさに繋がっている典型的美人声なのである。
声が実にいい具合に艶めいていて、濡れているのだ。 プラス、その声はただ艶々に色っぽいだけでなく、そこに絞ったレモンをひと雫落としたような清涼感ももっている。
だから色っぽいけれど、決していやらしくもないし、淫靡に黝くもない。 初夏のあざやかな午後の陽光の下で、思わず聞きたくなるのが彼女の声である。

この人はジャズを良く聞いていたのでは、と私は感じる。
あくまで歌はポップスが中心なのだが、どこかジャズっぽい黒っぽさ、というか、ジャズ的なソフィスケーションが彼女の声には漂っているのだ。
歌い方もフォービートを感じるおおらかさがあるし、そしておおらかに歌って、要所要所でスリリングに決めてくる良さがある。 実にいい、ジャズっぽいタイム感を持っていると私は感じる。
亡き父を思う「パパのJAZZ」(『VOCU』収録)であったり、ラストアルバムとなった『デザートに星屑のゼリーを』のサウンド・プロデュースが本多俊之であったり、と、リリースされたものの事実だけを客観的に見ても、ジャズに対する感度を彼女は持っているようにも見えけれども、 では、実際どうであったか、ということは私にはわからない。というか、そういったことが論じられるほどの彼女のデータが私の手元にはない。

ただ素直に「ほんとう、いい声だよなあ、いい女を感じさせる声だよなあ」としみじみ感じ、もっと脚光を浴びて、多くの人に知ってほしかった。と思うことしきりなのである。



…………と、いくのがいつもの私なのだが、今回ばかりはちと違う。
なんとなくわかるのだ。売れなかった理由が。

彼女の写真を見ていただければ、わかるのだが、 ……彼女、声ほど顔は美人ではないのだ。 どちらかというと田舎の高校で国語の教師とかやっていそうな、そんなお堅い仕事が似合う容姿の持ち主なのである。

加藤和彦プロデュースのアルバム作ったり(『quiet storm』)、シングルを坂本龍一に書いてもらったり(『Creation my heart』)、当時流行のPWLサウンドのカバーをしたり(「ラッキー・ラブ」)、バブルで浮かれているOL層にターゲットをあわせたアルバムを作ったり(『dear』)、実際、スタッフは彼女の良さを引きたてるために様々な努力をしていたと思う。 ちなみに、東芝の彼女の担当ディレクターは今や宇多田ヒカル担当で一躍有名になった三宅彰氏である。
しかし、そんな彼女の活動で一番成果があったのが、顔出しなしのプロモーションで済む「アニメとのタイアップ」というのが悲しい事実としてそこに横たわっているわけで……て、しつれいな分析だな、これ。

彼女の歌をいまでも覚えている人というのは、そのほとんどがアニメ「きまぐれ☆オレンジロード」を観ていた者といっていいんじゃないかな。
彼女の小ヒット曲「夏のミラージュ」(71位/2.3万枚)、「悲しいハートは燃えている」(30位/2.7万枚)は共に同アニメの主題歌だったし、 また「あの空を抱きしめて」は劇場版のテーマソング、「サルビアの花のように」は劇中でヒロインまどかが歌う歌ということで流れていた。 ―――その他にも「不確かな I LOVE YOU」、「鳥のように」、「ジェニーナ」などが劇中で効果的に使われていたと記憶している。

確かに、和田加奈子の歌声は、劇中のヒロイン・まどかに似合いの、つまりは「中高生くらいの恋人のいない少年が憧れる年上の女性」的な、いい女の声そのものだった。 悲しいかな、アニメーションの美少女をあてがうことで、はじめて和田加奈子の歌声はそれと適うビジュアルイメージをえることになるわけである。

もちろん、彼女の顔が全ての元凶、というわけではない。―――多少容姿に不自由な人でも歌手としてメジャーシーンで食べている人はそれなりにいるしね。 ただね、彼女の場合、あまりにも声ともギャップが大きすぎた。実際の彼女の容姿と歌声から感じる容姿との齟齬が激しすぎた。 彼女の歌を聞いていると、なんてグラマラスでセクシーでスリリングな歌声なんだと思う。が、それを歌っているのは国語の教師のような実直そうな彼女なのである。



また、彼女に歌声以外の武器を何も持たなかったというのも飛躍に今1歩届かなかった理由ののひとつであると感じる。
作曲はしない。作詞はするが、可もなく不可もなく。取り立てた特徴もない。そして、ライブハウスでテレビでラジオで、メディアはなんでもいい、とにかくファンを広げていく核となる磁場を作ることも出来なかった。
今であれば、歌が上手いだけで成り立っている、CDだけが表現の場の歌手というのはいくらでもいるけれども、その頃はまだ歌謡界は「J-Pop」という言葉を生み出す少し前の時代であった。ファンを取りこむためのなんかしらのわかりやすいアイコンとか、自己主張が必要な時代だったといえるかもしれない。 彼女には、声以外に「彼女を彼女たらしめる」なにかがなにもなかった。

確かに容姿のスクエアっぽさ、不自由さを逆手にとって『dear』『デザートに星屑のゼリーを』と、同世代OL層のファンの獲得にむかったのも間違いではなかった、と思う。 この時期の彼女を推すというファンもいると思う。私もその一人だし。 『dear』は歌唱力、トータルバランスでいって彼女のアルバムでベストの作品といっていい。 が、バブルの華やかさは結果彼女を退けた。

そして、彼女は91年のシングル「Wake up dream」を最後に歌手活動を停止。その後何故かTBS系のクイズ番組「世界不思議発見!」のミステリーレポーターで何度か見かけるが、フェードアウト。 いまは芸能界と完全に決別し、何をやっているかというと、なんと最近マイク真木と結婚したという。



彼女のアルバムは活動の難しさを物語るかのようにどのアルバムも毛色が違うのだが、どれもなかなかな良作。

加藤和彦好きなら2ndアルバムの『quiet storm』だろう。お得意のヨーロピアン・ロマンスで手堅くまとめている。作家は加藤和彦のほかに安井かずみ、大貫妙子、清水靖晃、高橋幸宏、GONTITIなど危なげない作家陣である。「風のOXYGEON」「琥珀の涙」など、退廃すれすれの豪奢な優雅さが味わえる。

「きまぐれ☆オレンジロード」での彼女の歌を知る者は、初期シングルの入ったコンピレーション『エスキース』、また3rdアルバムの『KANA』がいいだろう。
『エスキース』、未CD化の1stアルバム『TENDERNESS』の楽曲がCDで聞けるのはここだけである。 またデビューシングル「パッシング・スルー」は作詞家、及川眠子のデビュー作品でもある。車のイメージソングらしい疾走感が楽しめる。が、なんといってもこのアルバムは「夏のミラージュ」が最高。鷺巣詩郎の冷徹できらびやかなアレンジもばっちり。酔わせてくれる。
『KANA』は、オープニングの「Party town」の鳥山雄司のシンセ音が懐かしい。これは、カシオのキーボードでしょ。「哀しみのヴァージンロード」では中崎英也とデュエット。「鳥のように」は久石譲の作、編曲。これもいい。わたしが気に入っているのはアカペラの「冬の水族館」、新川博のスリリングな仕掛けたっぷりのアレンジが好感触のサンバ「悲しいハートは燃えている」、ロダンの愛人カミーユ・クローデルを歌った「C.クロ―デルの罪」(――ちなみに和田は芸大の彫刻家出身らしい)。

ユーミンブームに乗ったOLソングアルバム『dear』は私が一番好きなアルバムである。 シングル「Dreamin' lady」はハウスのスープスパゲティーのCFソングだった。 作詞は松井五郎。この部分がいい。
オフィスには翼のないパンプスたち溢れているの
運命はこの私に配るカード決めかねているの

この詞は1年後そのまま中山美穂に使いまわしている。
中山の「女神たちの冒険」(90年シングル)は、こう。
メトロの階段はパンプスのレボリューション
1秒先にある夢を追いかけているわ

他、「赤と黒」「If」「Crescent moon」「流れるように」と佳曲が並ぶ。ラストは「See you」。後ろ手でさよならをして、こつこつをヒールを鳴らして消えていく彼女の後姿でこのアルバムは終わる。
かっこいい。
ちょうど今の季節、春から初夏にかけて聞くと1番いい盤じゃないかな。

『VOCU』は私小説風のアルバム。かなりパーソナルな部分をポップスにしているように感じる。アジアンチックな「Asian dream」「向い風に」がすき。この路線もありだよね。
『デザートに星屑のゼリーを』は『VOCU』+『dear』という感じ、OLの私生活風のアルバム。都会のOLのかっこいいシティライフだけでない、きちんと生活して年齢を重ねている感じが漂うのが好感触。
『約束のイブ』は4曲入りのミニ・アルバム。キャンドルの蜜蝋がとろとろと溶けるように歌われる「星に願いを」が聴きどころ。この歌、こんな色っぽく歌える歌だったとは。
また「約束のイブ」は『VOCU』に収録されていた楽曲だがアレンジが違う。私はこちらの方が好き。これは涙ナミダのクリスマスバラードである。

と、まあ、色々なタイプが出ている。
全て廃盤で入手が難しいのだが、中古ショップに行った時など、ふと思い出して探して見つけ出してサルベージしてくれたら、わたしはとても嬉しい。



業務連絡。
東芝さん、和田加奈子のベスト盤、まだ1枚も出してませんよ。忘れちゃいませんか。
アルバム未収録のシングルやB面をフルコンプしたベストを東芝のベストシリーズモノの「ゴールデン☆ベスト」でいいですから出してください。お願いします。売れるかどうかは知りませんが(――無責任)、少なくとも私は、絶対買います。

2004.04.11


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