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中森明菜「Jive」

(「Femme Fatale」より/1988.08.03/ワーナー・パイオニア/32XL-195)


Jiveは「スウィングにあわせて踊る」という意味であるが、俗な意味で「からかう、いんちき、たわごと」という意味もある。
この歌を男のたわごとに翻弄される女の歌と私は解釈する。
彼女を渇望する男たちは甘いたわごとで彼女の心と体をまさぐっていく。

甘い言葉も 優雅な時も
望まないから ほっといてほしい
(作詞 Fucci Qumico/作曲 都志見隆)

誰にも束縛されない、誰にも染められない、ひとりきりで満ち足りた彼女の孤独な夢の殻。その心の殻を男たちの手はゆっくりとしかし、確かな力強さで、まさぐり、そして自らのものにしようと壊しにかかる。
それを「ほっといてほしい」と彼女は拒否する。しかし、それは徒な抵抗だ。いつか自らの心の砦は取り壊され、男の掌へと籠絡されてしまう、そのことを彼女が実は一番よく知っている。
だからこそ思わずつぶやいてしまう。

あなたに似合わないくらい 欲しがるのは何故なの
綺麗な人は 他にもたくさんいるはず

こんな言葉がはまるのは当時の中森明菜ならではである。
圧倒的な美貌をもちながらもそのことにまるで自覚的でない中森明菜のような者でなければ、この拒否の言葉は意味をなさない。
彼女の物真似をする友近がいったところで「たしかにそうだよな」でおわりだし、誰とはいわんが例え美しくても自らの性的魅力で堂々と男にアプローチするような女性ならば、やはりこの言葉は光らない。

夢の殻のなかに引きこもっている孤独な眠り姫である中森明菜が、男たちの恋の手管で今まさに性感のただなかに引きずられようとしている、その瞬間のような歌にきこえる。
これが中森明菜のエロスの形である。隠れたいい歌だ。


2004.01.23
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