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さくさくレビュー 岩男潤子


 90年代半ば、日本のアイドルシーンが大きく退潮したのと期を同じくしてアイドル声優ブームが到来した。
 マスの女性アイドルへの需要の一部分( というかぶっちゃけていえばコアなアイドルオタクのアイドルへの需要のすべて )を、実質彼女達が担ったわけだが、その中で最も80年代アイドルの色彩を強く残した楽曲をリリースしたのが岩男潤子だった。
 それもそのはず、彼女は、80年代半ばのアイドルグループ・セイントフォーの一員だったのだ( ――このようなアイドル脱落組の声優転向、というのは当時実に多く見受けられた )。 しかし、彼女がセイント・フォーに参加して以降、このグループは新曲をリリースすることなく解散してしまった( ここには様々な利権が絡むスキャンダルが潜んでいたのだが、それはセイントフォーの回に後述する )。
 そんなアイドルであったのにアイドルとしての役割をまっとうできなかったかつての日々にリベンジせんという意思があったのか。 古典的な清純派アイドルポップス――それもなかなかに上質なそれを、彼女は披露している。そのうち、わたしが手にしている数作を紹介する。


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 はじめまして  (1995.4.5/第81位/1.0万枚) 

1. はじめまして 2. 泣かないウィークエンド 3. 食卓にルールを 4. ぶらんこ降りたら 5. 恋がひとつ消えてしまったの 6. ジューン・ブライドになれなくて 7. 朝のキスを 8. シャッターチャンスの連続 9. 2年あとのプロポーズ 10. 坂道

 80年代でもっとも悲惨なアイドルグループ・セイントフォーからまさかよもやのサバイブを果たした声優・岩男潤子のソロデビューアルバム。95年発売。 作家陣は山本はるきち、来生たかお、川井憲次、羽田健太郎など。
 って、もう、これ、どうあがいてもアイドル声優のアルバムだな、おい。 アイドル声優に萌えるヌルいキモオタ男相手に岩男ねぇさんがんばってサービスしております、という感じ。
 声が、あんまりにもわざとらしく可愛らしいんだよね。
 海っぱたで風に吹かれながら、つば広の帽子に純白のワンピースでにこっ、みたいなジャケット写真ともに 「こんな都合のいい女いねーーよっっ」と思わず叫んでしまうこと必至かと。
 「このアルバムを聞いたら、誰だって彼女にしたくなる」て帯コピーからして、そのあたり完全に狙いすましているんだろうけれどもね。
 谷山浩子や山本はるきちとの出会いから、後にアーティスト志向が俄然強くなっていった彼女だけれども、はじめの一歩はとてもぬるかったようです。 基本的に物語性のある声の持ち主なので、聞かせるアルバムではあるんだけれどもね。と軽くフォロー。


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 18番街の奇跡  (1995.11.1/第66位/0.6万枚) 

1. -プロローグ- 2. ジングル・ベル 3. -バレエ教室のクリスマス- 4. きよしこの夜 5. -サンタと煙突- 6. サンタが町にやってくる 7. -チュチュをはじめて着た日- 8. ウィンター・ワンダーランド 9. -クリスマスケーキの宝箱- 10. ホワイト・クリスマス 11. -祈りをこめて- 12. 天使の声が聴こえる 13. -イヴの猫- 14. ずっとあなたを捜してた 18番街の奇跡 15. -エピローグ

95年発売のクリスマス企画アルバム。プロデュースは斉藤ネコ。 「サンタが街にやってくる」「きよしこの夜」「White Christmas」などのスタンダードなクリスマスソングの合間に岩男のナレーションが……って、もう、なんか眠い。 お綺麗すぎて退屈。どうせわたしの心は汚れてますってばさっっ。 吉川忠英、土方隆行、窪田晴男、島村英二、石井AQなど声優アルバムにしては、異様に豪華なスタジオミュージシャンたちによるリズムセクションに、さらに総勢30名の生ストリングス、だぜぇ。 これで「歌のお姉さんによるお子様向け――だけども絶対子供は買うはずのないアルバム」を作り上げるっていうのが、まったくわけわからん。


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 エントランス  (1996.7.19/第67位/0.6万枚) 

1. 太陽のくに 2. 夜明けのフレンチ・キッス 3. 運命のエントランス 4. 三日月(クレッセント)の疑惑 5. あなたを忘れたい 6. 勘違いの輪舞曲 7. 鳥篭姫 8. 追憶のエチュード 9. 晩夏 10. ねこ曜日

 96年発売の二枚目。一転して聞かせる作りになっているぞ。これ。 音の出るファングッズとはもう呼ばせない。そんな感じ。
 プロデュースは斉藤ネコ。作家陣は谷山浩子、尾崎亜美、小林明子、相曽晴日、YOU、福原まりなど全て女性アーティストで固めており、 プレイヤーも上記作家陣にプラス、鈴木茂、松武秀樹、小原礼、窪田晴男、石井AQ、吉川忠英など一流どころがずらり。
 これは典型的な良質の80'Sアイドルアルバムだな。 一番近いのが、「スカイパーク」とか「ハーフシャドウ」の頃の河合奈保子。 自作自演志向の強いシンガーが、先輩シンガーソングライターたちと共同作業って感じの一枚。
 ファンの需要にこたえるために詞は一貫して保守的でありていな女性像に終始しているけれども、それなりに物語性があるし、サウンドはかなり上質で攻撃的。 詩情溢れる「太陽の国」や「勘違いのワルツ」「晩夏」、鈴木茂のギターが唐突に咆哮する「鳥篭姫」あたりが個人的にはツボ。 このアルバムを契機に、彼女は歌手になってしまう。

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 kimochi  (1997.9.19/第39位/0.7万枚) 

1. ドリーム・ドリーム 2. はじめてのさよなら 3. 好きな人がいるの 4. 風のジャンヌ 5. おひさま 6. SHIPPO 7. あそびにいこうよ! 8. パタパタ 9. メイ・ストーム 10. 翼になれ 11. ここにいるよ

 三枚目は谷山浩子プロデュース。97年発売。
 作家陣は谷山をはじめ、崎谷健次郎、いしいめぐみなど、といつもの谷山人脈。また岩男潤子自身が作詞・作曲で四曲参加。
 キモオタさんののぞむ少女趣味と、不思議少女ののぞむ少女趣味が合致した見事な谷山浩子のプロデュース。 アイドル声優的あざとさは前作より強いんだけれども、むしろそのあざとさがぎりぎりのラインでいい意味で個性になっているあたりが谷山マジックかと。 てか、久しぶりのアイドル系仕事に、谷山先生、本当楽しそうです。
 こりゃ、もうどうみても不思議ちゃんぶりっ子だろ、みたいな「SHIPPO」や「あそびにいこうよ」など、年齢からいってあんまりにも可愛い歌は歌いにくくなったのを、ここでは久々に全開。 フォーク回帰的な「おひさま」にほっこりしたり、切ないメッセージソング「ここにいるよ」「パタパタ」にしみじみしたり、全体のうねりもほどよく、良作といって差し支えない出来かと。
 このアルバムで彼女はさらにアーティスト志向を深め、プロダクションも声優をメインにマネジメントしている81プロデュースから移籍し、翌年には山本はるきちと結婚する。


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 コンサート Kimochi in 東京国際フォーラム  (1998.2.18/第50位/0.5万枚) 

【 ディスク:1 】 1. オーヴァーチュア 2. はじめまして 3. ぶらんこ降りたら 4. 恋がひとつ消えてしまったの 5. ずっとあなたを捜してた 18番街の奇跡 6. 晩夏 7. 太陽のくに 8. 鳥篭姫
【 ディスク:2 】 1. ドリーム・ドリーム 2. 好きな人がいるの 3. おひさま 4. SHIPPO 5. パタパタ 6. エンジェル・コーリング 天使の声が聴こえる 7. 翼になれ 8. ここにいるよ 9. 手のひらの宇宙

97年12月18日に東京国際フォーラムで行われたライブを完全収録。 これまでリリースしたアルバムから満遍なく曲を組んでおり、ベストアルバム的なニュアンスも含んだライブ盤といっていいかも。 この作品は彼女からファンへ向けて「これからは音楽活動をメインにやりますよ」というメッセージと受け取っていいんじゃないかな。
ピアノを弾き語りしつつ、真摯にラブバラードを歌っております。 歌唱表現も、大人でありながら少女性を失わない――つまりは谷山浩子ライクな世界で手堅い。
ただこの人は、真面目すぎるのが、仇なんじゃないかな。 ライブなんだからもちっと遊び心があってもいいと私は思う。 「その生真面目さが萌えるんだよっ」とファンの人に言われればそうですか、としかわたしはいえませんがっっ。
ひとまず彼女のアルバムで一枚、といったら、これだとわたしは思う。


◆ その他 アルバム作品

Favorite Song(1999.3.3)
alive(1999.7.7)
appear(1999.11.17)
CANARY(2000.12.6)
 ――以上 ポニーキャニオン

2007.09.12 編纂
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