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俺の憎いあんちくしょう

いのまたむつみ



やはり、この「当世挿絵画家列伝」のオープニングを飾るのはこの人しかないでしょう。

いのまたむつみ。

萌えたーーーー。
いや、正確に言えば、いのまたむつみの描いた「宇宙皇子」の絵に萌えてしまったわけなのだが。
そう、わたしにとってのいのまたむつみはこの藤川桂介著「宇宙皇子」と濃密な繋がりを持って記憶しているのである。

あーーー、書くの恥ずかしい。
でも書いちゃう。

つーか、「宇宙皇子」知ってます?
知っている人なら話がはやいんだけど。
えっと、「宇宙皇子」。
角川書店から出版されている自称「異次元童話」。
1984年にカドカワノベルズから刊行を開始し、1998年に上梓しきった、延べ冊数は本編48巻、外伝4巻という超大河小説。
でもって、1989年にはアニメ化し、劇場公開。
公称売上部数はシリーズのべ1500万部を超えたという作品で、いのまたむつみは1巻から21巻までの挿絵と本編全巻の表紙絵、映画作品、OAVのキャラ原案を担当している。
というあたりが世間的な説明。

個人的な意見をいわせていただければ「宇宙皇子」ってのは、『びっくりするくらいに下手な長編小説にオタが萌えやすいイラストをたっぷり挿絵として盛り込むことによって売ることに成功した最初のハイティーン向けの小説作品』。
後に「カドカワスニーカー文庫」であるとか、「富士見ファンタジア」「スーパーファンタジー文庫」などの発足のきっかけになったのはこの作品の成功があったからでは、と私は読んでいる。
え、どんくらい下手かって?
知りたいならブック・オフの100円コーナーで立ち読みしなさい。絶対置いてあるから。

いやーーー、ほんと、いのまたむつみの絵に騙された。
俺なんか、映画、OAVは見たし、パンフレットだって買ったし、もちろん2冊の画集も、でもってサントラ・イメージアルバムを10枚も、わざわざ注文して買ったもんね。
うおーーー、恥ずかしい。
忘れたいーーーっっ。
実に、いのまたむつみは俺の憎いあんちくしょうなのだ。
ちなみに、じゃあ小説は全部買ったかというと(ある意味、「宇宙皇子」を読んだ人がほとんどそうであるように)買ってないのよ。
でもってもちろん、読んでもない。

だって、途中でいのまたむつみがイラスト担当じゃなくなるんだもんーー。
(ちなみにいのまたの後は「ところともかず」という人が挿絵担当。このひとはよく知らん。他になんの仕事しているかも知らん。つい最近、西原理恵子におちょくられているのを見た程度ですな。ただ、絵は上手くない)
いのまたむつみのイラストなくしてあんな小説読めっかよッッッ。
といいつつ、なんと私は煉獄編第3巻までついていっているのだが。
そうそう、この「宇宙皇子」。なぜか10巻区切りで「○○編」とかになっていて、最初から順に「地上編」「天上編」「妖夢編」「煉獄編」「黎明編」となっているのよ。
で、大抵の人はいのまたが表紙絵のみになった妖夢編でリタイアしているのだが、わたしはどういうわけか、煉獄編までついていってしまったのよ。
若かったからなーーー。
当時は完全にマインドコントロール状態で、結構、読み物として楽しんでいた感すらあった。
藤川氏の他の作品なんかもほとんど全部目を通していたし、ファンクラブに入ろうとすらも思ったし(ただ当時既に解散していた)。
だって、イラストがいのまたから変わったのすら妖夢編の途中まで気づかんかったしなーーー。
うむむむむ。
そんな過去の自分が嫌。
一方で当時から村上春樹とか、手塚の「ブッダ」とか「火の鳥」なんかも読んでたのになーーー。

ともあれ、マインド・コントロールが解けた今なら言える。
この作品、俺はただのいのまたイラスト萌えだけだった、と。
そうそう、描けもしない絵なんかも当時描いたしな。画集を立てかけて見ながら、いのまた絵を模写したりしたし。
ほんとに、ただのファン。

ところが、じゃあ、今のいのまたむつみのイラストが好きかといわれたら困ったことにNOなのよねーーー。
別にナムコのゲームもやってないし。
だって、画風変わったじゃーーーん。

私の中では、いのまたむつみは完全に「サイバーフォーミュラ以前」「サイバーフォーミュラ以後」で分類されてしまっています。
あのアニメのキャラデザという作業が彼女をどうかえたのかは知らんが、はっきりと、イラストはそのテイストを異にしたと私は見ています。
極めてわがままなファンの言いぐさだが、「なんで画風変わったのよーー」
というかんじ。
といっても作家はファンのために存在するわけではないので、ただ、まあ仕方ないよね、と昔のイラスト集だけで満足しているのだが。

当時のいのまたの絵の魅力は、可愛らしさや華麗さに、そこにほんの少しのスパイスで、おどろおどろしさがあるところかな。
いのまたキャラの(イラストのみで見る)個人的ベストは「風の大陸」のティーエかな。
是非ともベスト・ヒロイン賞(笑)をあげたい。

ちなみに、いのまた好きならいのまたの友人の橋本正枝は絶対忘れてはならない存在。
漫画・イラストレーションで活躍する彼女だが、画風はいのまたに近く、いのまたキャラをもう少し丸っこく幼くすると橋本正枝の絵になる。
個人的には尾鮭あさみ(彼女の小説は、色々だが、根本的に上手い)との食い合わせが最高だと思っている。
近頃、彼女の仕事を見ていないが、どうしているのかほんの少し心配。

でもって、動いているいのまた絵を見たいなら、絶対「ウィンダリア」。
これは、もう、見るしかねーーよ。
個人的には「天空の城ラピュタ」に並ぶ超名作劇場アニメだと思う。
きちんと大人も見れるエンターテイメント・アニメなのよ。
脚本はさっき散々とこき下ろした藤川桂介なのだが、アニメの脚本家が本職というだけあって、立派立派。

ストーリーは戦争によって引き裂かれる2組の男女の物語。
1組のカップルは「雨月物語」の「浅茅が宿」をモチーフにしているのだろうが、アニメ世界に上手く翻訳している。
また、藤川作品の底流に流れる戦中派左翼の説教臭さというも、たしかにこの作品にも漂ってはいるのだが、それがきつくないので作品自体をだめにはしていない。
むしろこれぐらいだったら、作品に哀感が漂うのでむしろ好結果となっている。

この物語の世界では死者の魂は赤い鳥にのような形で見えるものになって、幽霊船という死者の箱舟に乗って天の召される。
その死者の魂である幾千の赤い鳥が、戦乱によって市街まるごとが水没し、生きる人のいないしんと静まり返った市の跡である湖面の中心にぽっかりと突き出た大聖堂に集っている。街を水没に至らしめた主人公がその光景を見て唖然となっているところにそれが一気に羽ばたく。
この場面なんかは結構鳥肌モノ。
実に戦中派藤川桂介の面目躍如といったところですな。
素直に見れば、充分泣けるアニメ作品です。
劇伴の門倉聡(後にWINKの仕事でブレイクする)もいい仕事しているし、
エンディングテーマの新居昭乃の「美しい星」も涙を誘います。
とかいって今見つつ書いていたら不覚にもまた感動してしまったぢやないか。
絵もしっかり丁寧に書いているし、なんで映画、当たんなかったんだろう。
「銀河鉄道の夜」、「天空の城ラピュタ」とともに私のアニメ・ベストスリー作品。

でもって、いのまたはキャラデザ・作監なのだから、
うおーーーーっ、いのまたキャラ動いているーーー。という快感が得られるという。
もし、昔のいのまたファンで「ウィンダリア」見ていないっつうなら、絶対見るべし。
私も藤川桂介脚本で遠ざけていたから見たのは結構最近なんだけど、これは見ないと、損よ。

あともうひとつ、「風の大陸」はキャラデザは結城信輝なんだけど、いのまたキャラという味を潰さないように細心の注意を払って作っているのが好感をもてる。
ストーリーは特にどうってことって感じですが。ただ、同時公開の「アルスラーン戦記」みたくダイジェストになっていないあたりがいいですね。

つーことで、案外今でもいのまた好きのまこりんでした。
でも、版画は買わないよ。


2003.01.20


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