◆ 西村知美 「ベストナウ」 ◆ 石井明美 「JOY」 ◆ 工藤静香 「EXPOSE」 ◆ 工藤静香 「B Side Collection」 ◆ 早見優 「Yu's BEST」 ◆ ラ・ム― 「 Thanks Giving 」 ◆ 高井麻巳子 「BEST」 ◆ 高井麻巳子 「Message」 ◆ 長山洋子 「オンディーヌ」 ◆ つみきみほ「つみきみほ」 ◆ ◆ ◆ ◆
当時だいたい年末になるとアーティスト別に一斉発売されていた東芝のベストシリーズの一枚。 90年発売で、アイドル時代の西村のほぼ全てのシングルがコンパイルされている。 「アイドル歌謡は歌唱力でない、トータルの世界観がすべて」 そうはいいつつも、あんまりにもあんまりな歌唱力だとさすがに萎えてしまうのも事実で、わたしにとってそのボーダーライン上にあるのが西村知美の世界。 おもいっきり下手っぴだけども、うーんでも世界がつくられているからいいか、いいのか? と、わたしの心は微妙に揺れるのであります。 作家陣は松本隆―筒美京平のゴールデンコンビをはじめ、来生姉弟、ユーミン、加藤和彦、中原めいこなど当時の一流どころで豪華だし、アイドルポップスとして合格点といっていい上品さと可愛らしさがあって、それが彼女の声質とあいまって、と、そういったところがそれなりにいいんだけれども、どこか二番煎じの感じが拭えないんだよなぁ。 聞いていると、事務所の先輩の菊地桃子をはじめ、東芝の同じディレクターの薬師丸ひろ子や、斉藤由貴、南野陽子など、同業他社の顔が妙にちらちらするのだ。 でもって、スタッフが被っているせいか、担当しているそれぞれの作家が、薬師丸でも斉藤由貴でもなく、西村知美だからこそこの世界を表現したいんだ、という熱意が、あまり強く感じないのだ。 80年代の末期になると、こういった良質だけれども、どこかパスティーシュの匂いのきついアイドルが乱発。アイドルポップスの世界は死に体になっていくんだよなぁ。 ――て、悪いことばっかいっているけれども、彼女のシングルぎりぎりストライクなのは事実。シングルだと「シンフォニーの風」や「君は流れ星」あたりがツボ。アルバム曲・B面曲だと「憧れのドーヴィル」が一押しかなあ。作家だと、同郷のピカソの辻畑鉄也が彼女の作品でいい仕事をしている。 (記・2007.08.05)
石井明美のセカンドアルバム。87年8月発売。全曲筒美京平作曲によるアダルトオリエンテッドな佳作。 プロダクションは研音、レコード会社はCBSソニーの若松班――つまり中森明菜と松田聖子のスタッフのコラボレーションという80年代歌謡界において奇跡のプロジェクトだったわけだけれども、仕上がりは何故か中原理恵風。歌唱力のあるおねぇちゃんがお水の匂いの漂うエロめな歌をしっとりと歌い上げております。 気分はもう夜のカラオケバーだっ。ムーディーにもほどがある。 「ノスタルジア」や「セレブレーション」あたりもいいけれども、個人的には、阿木燿子の怪作「響きは tu tu」に全てを持ってかかれるぜっっ。「あっあっ、のれそう」ってどういう歌詞だよ、もう。確実にイキ声だろ、これ。 ――ちなみに。この頃の阿木ねぇさんは「初恋進化論」「紳士同盟」などエロ系珍品をドロップしまくっております、一体この頃なにがあったの ? 阿木さん。 ただまぁ、こういうファッショナブルでエロな雰囲気ってのは、どうも彼女の場合お仕着せっぽいのが、ちょっとむずがゆかったり、というのもあったりして。いいけれども、いまいちフィットしきれていない感じ。 本当は、ガハガハ大口開けて手ェ叩いて笑うような、あけっぴろげでがらっぱちキャラなのを、雰囲気壊れるからしぇべるな笑うなと事務所から指示を受けていた明美ねぇさんですからな。 ま、その面でいうと、次アルバム「Fanatique」は、音は安っぽくなったし、なんだか明菜のラテン路線とハードロック路線をまぜこぜにして劣化コピーしたのような世界観で、完成度はこのアルバムほどではなかったけれども、 なんだか歌声が妙に楽しげで、はるかに彼女に似合っておりました。 (記・2007.05.26)
アイドルの初自己プロデュース作品ってのは、そのアイドルの本質というのが、よく見える。 「いろいろ周りからいわれてその中で調整していままでやってきたけれども、本当はこういうことがやりたかったの」って感じでね。 てわけで、そんな工藤静香の初のセルフプロデュース作品が94年のアルバム「EXPOSE」なんだけれども、これがもう笑っちゃうほどにビジュアル系。 インディーズ時代からのファンに「メジャーになって、フツーにポップになって面白くなくなっちゃったよね」とかいわれる具合の、程よいメジャーぬるめビジュアル系であります。 「Blue Rose」「naked love」「Adamas 〜 征服されざる者」「Jazzyな子猫」といったあたりは、 バカスカなりまくるドラムスに変な美意識感じるノイジーなギター、少ない語彙を駆使して編み上げたエロス&バイオレンスな絵空事リリック、歌唱力がないのを誤魔化すために変に凄んだ歌唱、全てがど真ん中。 そのほか、ファンシーおとめチックのバラード「夢」、退屈な深刻バラード「Pain」、妙に疾走さわやか系「Step」、ボーカルをエフェクト処理させて実験風味な「Jagguar Line」など、 V系に欠かせないスパイスもばっちり取り込んでおります。V系って、メジャーになればなるほどこういうぬっるーーい曲が増えてくんだよね。 本物になるには、才能とか技術とかいろいろと足りない人が、気合と根性と厚塗りメイクと眉間のしわで補填して築きあげた中二病的な「本格」で「大人」で「耽美」な世界――それがビジュアル系の美意識だと、小生思うのですが、 このアルバムにあるのはまさしくそれ。さすが、YOSHIKI様の元カノだけあるぜっっ。 個人的にこのアルバムのベスト・オブ・V系ソングは「冷めてく音」。歌唱・アレンジ・詞、全てがV系として完璧。 この妖しく耽美で思わせぶり――だけど、その実まったくの無内容が素晴らしすぎます。 歌いだしの「冷めた魔術師が両手広げ 鏡の中のrebellion やさしく包む」からしてってまったくのビジュアル系で、まったく意味がない。 これで作曲陣が、飛鳥涼、都志見隆、鈴木キサブロー、尾関昌也、羽田一郎など、わりとずぶな歌謡曲畑の人材ってのが面白いよなぁ。 なぜか女性歌手には存在しないビジュアル系というカテゴリー、しかしこのアルバムと工藤静香だけは、そっとその範疇に入れてあげたいです。 (記・2007.05.25)
20周年記念のベストアルバムに続いてB面ベストも発売。 どんなアーティストでもそうざらにないB面コレクション、こりゃ買わにゃならんっ。と、購入。 カップリングって、その必要性が薄い分、結構当時のスタッフやアーティスト本人の意気込みがまるわかりになるよね。A面を食っちゃう勢いでがっつりと作ったり、あるいは、シングルで勝負したりアルバムに入れるにはちょっと難しい今までと毛色の違う曲を「こういうこともできますよ」的に、ちょっと披露したり、なんてのもできるし。それがシングルメインのアーティストになると殊更そのあたり、顕著になるよね。 ってわけで聞いてみたけど、んんん、静香のB面はフツーのB面かな。 これは絶対M-1にすべきだろっっ!! もったいないっっ!! というのもあれば、シングルにするにはフックが足りないけど地味光りしているいいB面曲だな、というのもあり、これは露骨に穴埋めだな、というのもあり、まあ、メジャーアイドルのB面らしい感じ。 わたしの知っている限りでB面が凄いアイドル四天王をあげるとすると、中森明菜・松田聖子・南野陽子・Winkあたりかな(――特にWinkと明菜のカップリング曲の完成度の高さは異常)。 それと比べると、工藤のはちょっと落ちる。テンションで云うと、百恵や中山美穂、ジュリーのB面あたりに近い。 A面にすりゃ良かったのにB面ベストスリーは「TEL…ME」「終幕」「Party」。シングルには難しいかもだけどこれはいいよね、というのは「ちょっとしたGUILTY」「コール」「永遠の防波堤」「Non-Stop」「Ri・a・ru」「Still water」「Break」「長い髪」あたりかな。 とはいえ、全34曲+LIVE DVDで3600円という爆安価格なので、A面に飽き足らなくなったら是非買いましょう。音質もかなり向上してますぞっ。 (記・2008.3.5)
82年組ではひそかに中森明菜に次ぐ歌唱力を有する早見優。 そんな彼女の89年発売の二枚組ベスト。 デビューから88年「Yesterday Dreamer」までの全シングルがコンパイルされている。 改めて全篇を聞きなおすとアイドルらしい魅力にあふれている時期が驚くほど短いことに驚かされる。 「夏色のナンシー」〜「誘惑光線・クラッ」までの一年弱しかないんじゃないかな。アイドルポップスの範疇なのは。 「Me☆セーラーマン」(ミスター・セーラーマン、と読む)なんてピンクレディ顔負けのお子様向けソングをリリースして以降は、一気にアーティスト方向へシフト。 「PASSION」以降は、フツーにガールズロック・ガールズポップとして優秀です。うまい。 声質といい、ビジュアルといい、パーソナリティーといい、全てにおいて乾いているところがこの人の美点でもあり、欠点。 世間がアイドルに求める部分ってのを彼女はあんまり持ち合わせていないんだよね。 アイドルって、本質的にもっと情緒的で、ベタっとしているものだもの。 それゆえに「ハートは戻らない」「Get up」のごとき匿名性の強い意味の希薄なユーロビートを歌わせるとベタはまりする。 つるっと耳に入って心地いい。 その後はというと、平成を迎えると同時に明菜・小泉を除く82年組のほぼ全てが歌手廃業をなったものの、レコード会社を移籍して細々とながらも歌手活動を継続。 今は松本伊代・堀ちえみとともにキューティー・マミーで活動しているが、 マミーのパラパラは、「ハートは戻らない」やバニラ・ブルーなど、早見のユーロ路線を継承しているのでは、キューティマミーの鍵は早見が握っているのでは、というのは考えすぎか。 あ、「ハートは戻らない」の12inchバージョン、これかなり無茶してます。好き。 (記・2007.03.16)
菊池桃子率いる伝説のバンド?ラ・ム―、唯一のアルバム。88年9月リリース。 謎の黒人コーラスやら、特撮戦隊モノのようなコスチャームやら、菊池桃子のぎこちないダンスやら、ニューエイジ風の妖しげなジャケットやら、売野雅勇のペンによるヘンテコな詞やら、 ネタにことかかない謎ユニット・ラム―だけれども、音源だけ聞いていると、そこまでトンチキでもなく、肩透かしを食らわされる。 いわゆる女版オメガね、といってしまってそれで充分な、あたりさわりのない一枚。シングルのような妙な歌詞を楽しみにしていたのにがっくりだっっ。 この頃のカルロストシキ&オメガトライブや杉山清貴のアルバムが好きというならどうぞ、という、80年代ど真ん中の、クリスタルでアーバンでおされで、ただそれだけという世界が広がっている。 ジャケットがラッセンっぽなおされ風景写真ってあたりがすでにオメガチック。 もともとアイドル時代の菊池桃子は、女版オメガといって過言でない林哲司のペンによるシティ・ポップス路線を引いていたわけだけで、 しかも87年の「Escape from Dimension」で、さらなるサウンド強化をはかっていた(――このアルバムでは、編曲は林哲司の手を離れている)わけで、 そこでこれからはさらに発展して、林哲司のサウンドプロデュースを完全に離れて、 ブラコン色をぐっと強くして、一気にアーティストへと飛躍、と。そこでラ・ムー、と。そういうことなんだな、と。わりとそのあたりが見えたりするわけで、まぁ、とにかく思ったよか全然フツー。 そこでなぜ鬼面人驚かすさまざまなビジュアル的小道具が飛び出してしまったのかは謎中の謎。 その後、ラ・ムーでハードにクラッシュした菊池桃子は、早々に歌手活動に見切りをつけ、CX系連続ドラマ「君の瞳に恋してる!」「同級生」と連投し、トレンディドラマ女優として華麗にメタモルフォーゼするのは周知のとおり。 歌手活動にこだわってフェードアウトしていった他のアイドルを尻目に彼女が見事にサバイブしたところを見るに、彼女にとってのラ・ムーは、災い転じて福となる、そのものといっていいだろう。 (記・2006.11.08)
河合その子とともにおにゃんこの美少女担当だった高井まみまみのベスト盤。 ソロデビューの「シンデレラへの伝言」からラストシングル「木洩れ陽のシーズン」までのすべてのA/B面をコンパイル。 作家陣は明日香やら沢ちひろやら八田雅弘やらと独特なライン。おにゃんこ系なのに後藤次利やら見岳彰やらおなじみの人材がまったくいないのに驚く。おにゃんこの仕掛け人であり後に彼女の旦那となる秋元康の作詞がB面に一曲だけって、ある意味凄い。 路線は、70年代フォーク、かな。アレンジはテクノポップがお得意の清水信之を起用し、80年代後半典型の打ち込み多用なのに、それでも隠せぬアナクロフォーク臭がいとおかし。 んでもって、シングルにも関わらず、どれもこれも驚くほど地味で、売れ線の匂いがほとんどしない。 このあたりはディレクターの長岡和弘の趣味なのか、それとも「うしろゆびさされ組」との差異化をはかった大人の戦略なのか。 まあ、無理にアップテンポでポップなものをやると、音痴っぷりが際立つという、そういうのもあったんだろうけれどもね。ほらアレですよ、浅田美代子の「赤い風船」以来の音痴系はスローでフォーキーな楽曲で誤魔化せ、的な戦略ね。 このあたり、うしろ指解散後、ゆうゆの楽曲がほとんど「ひとりうしろ指」状態になってしまっていたのととても対照的。 長距離恋愛を描いたいわゆる「木綿のハンカチーフ」路線の「約束」や、ラストシングルの「木洩れ陽のシーズン」が一番完成度高いんじゃないかなぁ。 (記・2008.7.10)
88年6月リリースの高井麻巳子のラストアルバム。 アルバムリリースの前月に高井は秋元康と電撃結婚・引退。 このアルバムのプロモーションはほとんど行われなかったと記憶している。 歌唱力はまったく向上していないにもかかわらず、表現力だけはしっかり向上しているのは、恋の魔術か。 伸びきったラーメンのように腰も味もない"おにゃんこ声"を脱し、切なさ溢れる少女趣味な世界を作りあげ、彼女のラストにしてベストと、私は推す。 作家は、麗美、岸正之、中村哲ら、特に半数担当の山口美央子が実にいい仕事をしている。 当時の彼女の同業他社は南野陽子・斉藤由貴あたり、いわゆる深窓のお嬢様路線を敷いていたと記憶しているが( ――ちなみに高井のディレクターは斉藤由貴と同じ長岡和弘 )、 その中にあって、よりいっそう素朴なところが彼女の持ち味。 南野・由貴に漂う、乙女指数の高過ぎるがゆえにあぶなっかしい部分、というのはない。 「そっと伝えたい 隠していたわけじゃない わたしの決心」と涙声でゆらぎながら歌う高井の自作詞のラストソング「小さな決心」はファンなら涙なしには聞けないだろう。 とはいえ、この素朴美少女っぷりが、彼女の計算ずくのセルフプロデュースであったのには、驚く。 彼女は結婚後、友人の斉藤由貴にかように語っている。 「私ね、私は絶対幸せになるって決めていたから、どんな風にして、どんな幸せをつかむのが一番私にとっていいのかを考えたし、そうして手に入れた幸せはきちんと守っていくつもりなんだ」げに力強き、美少女の上昇志向。 人は顔ではわからんものです。 (記・2006.11.01)
いまや、中堅演歌歌手として磐石な地位を築いている彼女のユーロ・アイドル時代のアルバム。 87年8月リリース。 荻野目洋子「ダンシング・ヒーロー」のブレイクの方程式をそのまんま援用して、「ヴィーナス」でようやくブレイクした彼女だけれども、 その次の一手を筒美京平にゆだねた荻野目と対照的に、ユーロ・カバー路線を踏襲しながら、自分の色を模索してこのアルバムが生まれた、といっていいかな。 楽曲の半分が「ラ・イスラ・ボニータ」など洋楽カバーで、もう半分が松岡直也、遠藤京子などの手によるオリジナル作品になっているが、散漫な印象はない。 全作ユーロカバーの前アルバム『ヴィーナス』のハイエナジーっぷりも、捨てがたいけれども、私にとっては、このアルバムが彼女のアイドル時代のベスト。 パキパキして乾いている荻野目の声質と対照的に、どこか翳っていて湿り気のあるところが彼女の個性といえる――民謡を幼い頃から歌っていたせいか、声に歌謡感がしみついているのだが、 その良さを活かしてミステリアスで少しばかり不幸な雰囲気を持った楽曲が並んでおり、きちんと統一した世界観を持ったアルバムとなっている。 「真夜中のオンディーヌ」にはじまり「アリス」に終わるという隙のない展開は、少女がつかの間夢見る真夜中の夢、という感じ。これ「真夜中」って、ところがポイント。妖しく、儚く、隠微な雰囲気。 オリジナルとカバーを織り交ぜながらも独自の冴えて怜悧な世界を作り出す、というスタイルは後のWINKのアルバム――「Velvet」や「Crescent」あたり、に近い。 しかし、この方法論は長山洋子に関しては王道とならず、次作『トーキョーメニュー』で、全作ユーローカバーのハイテンションなアルバムへと回帰する。 ちなみに。「ハイウェイ物語」や「悲しき恋人たち」に見られる歌うストーリーテラーと言ってもいいような歌詞を物語として聞かせる説得力は、演歌転向後の彼女の大きな強みになった、といっていいだろう。このあたり、聞かせます。 (記・2006.12.25)
(記・2006.4.22)
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