石川秀美 『Secret』
1.ハーバーライトにゆれて
2.ロマンチック ハウス
3.RULE
4.ゴーイング ホーム
5.スターデイト
6.ひととき遊戯
7.朝にさよなら
8.サレンダー
9.ミステリーウーマン
10.迷惑なラプソディー
匿名アイドル、秀美 (1984.12.05/RHCD-504/RVC) |
今回はリクエスト企画ということで、石川秀美。 自信がないんですけれど、行ける所までいってみますか。 取り上げるのは、84年12月のアルバム『Secret』。 アルバムを順に聞いているとこの作品が段落だと思います。 秀樹直伝のしゃくりあげているかような、声がひっくり返る直前のような疾走感溢れる秀美唱法もこの時期には完成されてきましたし、楽曲も彼女のデビュー当時のイメージ「爽やか」を前面に出したものから少しずつ、変化を遂げていきます。 つまり、目指すは「爽やか+セクシー」、「健康的お色気路線」です。 シングルでは「バイバイ・サマー」あたりから垣間見えた路線でしたが、「ミステリー・ウーマン」以降はこの路線で一気に駆け抜けていきます。 そして、その「ミステリー・ウーマン」収録のアルバムが『Secret』です。 アルバム一曲目「ハーバーライトにゆれて」から気合は入りまくりです。 セクシーさと熱さ、疾走感、まさしく「秀樹の妹」秀美の真骨頂がこの曲で味わえます。 彼女の作品の面白いところは、作家性の強い作家に頼んでも不思議と作家の色が出ないところだと思います。 このアルバムでも「ロマンチック・ハウス」、「スターデイト」は大貫妙子作曲、「RULE」は中村治雄ことPANTA(元・頭脳警察)の作詞、作曲、「朝にさよなら」と鈴木博文作詞、岡田徹作曲とムーンライダーズの二人によるもの、となかなか興味深い人選をしているのですが、歌に彼らの色が全く出ないのです。 多分提供アーティストのディープなファンでも言われるまで気づかないんじゃないかな。 では、それは秀美が自分の色にしているということか、というと、これがさほどそうでもないんですよね。 なんとなくフツーーになってしまう。妙に匿名化してしまうんですね。 ということで、彼女はそういった作家性の強いアーティストやトップクラスの職業作家でなく、小田裕一郎や松宮恭子などといったあたりの2番手3番手の匿名性の高い職業作家との相性なんだかとても良いのです。 このアルバムも私が好きなのは小田裕一郎作曲の「サレンダー」、松宮恭子作曲の「ミステリー・ウーマン」。 実際松宮恭子は「HEY!ミスターポリスマン」、「ミステリー・ウーマン」「愛の呪文」、と秀美のキャリアの中でポイントとなる楽曲を手掛け、彼女は秀美にとっての最重要作家と言ってもいいかもしれません。 こういった特性は彼女のアイドルとしての歌手としての特性そのものなのかな、と私は思います。つまり彼女はアイドルとしても極めて匿名性の強い歌手である。と。 シングルの売上げも、「HEY!ミスターポリスマン」から「サイレンの少年」まで、連続13作オリコンベストテンチャートインというなかなかの記録を持っていますが、代表曲という曲は一つも持っていない状態ですし、 1番ヒットしたのが「HEY!ミスターポリスマン」で15.1万枚、第2位が「ミステリー・ウーマン」で13.8万枚、以下どんぐりの背比べのような売上げでこれといったヒット作を彼女はたたき出してはいません。 (多分1番知名度の高い作品は82年の苛烈を極めた新人賞レースでの披露が多かった「ゆれて湘南」なんじゃないかなぁ) ―――確か、「ザ・ベストテン」などのランキング番組でも全盛期の頃から、彼女の曲はいつもぎりぎり10位に入るかは入らないか、と言った成績だったと思います。 実際、今の石川秀美のイメージって「シブガキのヤッくんの奥さん」「西城秀樹の妹コンテスト出身」「太もも」「大運動会でいつでも本気」の順ぐらいでほとんどアイドル時代の正業でのイメージって全くないと思います。 つまりヒット歌手としてイメージがぎりぎりつくかつかないかの微妙なラインにいたのが彼女のように見えるのですね。 ま、この匿名性も悪くいえばどっちつかず。セクシーつってもアンルイスに行きたいのか、中森明菜に行きたいのか、今井美樹に行きたいのか、それくらいの目標設定くらいはしてくれよ、といいたくなるときもありますが、その匿名性が逆にいいのかな、などと思ったりもします。 楽曲もゴージャスさには欠けますがどれも手堅くまとまっている感じですし。 ただ、作家選びがあまりにも盲滅法だったというのはちょっと惜しい感じでしたね。 軸足となる作家をつくって、もっとしっかりと楽曲制作してほしかったかな、と。 最初の頃こそ、松宮恭子、小田裕一郎あたりがメインでしたが、このアルバム以降になると本当、なんでもあり、加藤和彦ー安井かずみコンビ(「あなたとハプニング」)、売野ー芹澤コンビ(「サイレンの少年」)、森雪之丞でアンルイス風「ヤマトナデシコ七変化」みたいな曲(「春霞恋絵巻」)を出したと思ったら、裏声を大胆フィーチャーで林哲司作曲でほとんど菊池桃子の世界へ(「Shadow summer」)、 仕舞いにはペットショップボーイズに楽曲制作を依頼するわ(「Love comes quickly」)、明菜でお馴染み都志見隆を起用したり(「危ないボディービート」)、とほんとばらばら。 末期になんとか馬飼野康ニに辿りつき、アルバムまるまるプロデュースしてもらって落ちつきましたが、ちょっとさまよい過ぎだよね。 ま、これで楽曲を聞いている限りではあんまりさまよっている感がしないのがある意味凄いのですが。 そう、聞いている限りでは「匿名性の高い中庸アイドル歌謡ロック」という色で見事なでに統一されてしまうのですよ。それが匿名性の強さなんだろうなぁ。 (―――その特性を見越しての統一性のない作家起用だったとしたら、芸映のプロデュース能力はあらゆる意味でものすごいですな。) その匿名性にまぎれるようにさりげなく活動し、彼女歌手業が難しくなった頃に同期のアイドル仲間と結婚、そして引退。たくさんの子供と充分食っていける旦那の収入と穏やかな暮らし、という山口百恵でさえ得ることの出来なかった「普通の幸せ」を難なく獲得しているのだから、よく考えてみれば彼女は凄いです。 ある意味アイドルの上がり方として最高の位置なのかもしれないですね。彼女は。 蛇足。 石川秀美のライバルって早見優だったような気がします。 「同期」「海、夏に勝負をかける」「歌謡ロック」と、かなり被っているように私は感じました。 秀美は「ゆれて湘南」を皮切りに毎年、夏・海をテーマにシングルを出しまくってましたが(―――83、84年は「恋はサマーフィーリング」/「バイバイ・サマー」、「夏のフォトグラフ」/「熱風」と年に2枚も出している。がっつき過ぎだよ。以降は「Sea loves you」「Shadow summer」と続く)、早見優も結構負けてませんね。 83年には「夏色のナンシー」、「渚のライオン」と2曲もリリースしますし、その後も「Me☆セーラーマン」、「Passion」、「西暦1986」、「Caribbean night」と結構夏に勝負かけてたっぽい。 二人に間ではさりげなくも激しい夏合戦が繰り広げられた模様です。これがチューブとサザンの夏合戦と続くわけですね(嘘)。 ただし、優の海はあくまでハワイやグァムの海で、秀美の海は千葉や茨城の海なんですよね。秀美の海は地元のおばちゃんが海っぱたで作っている焼きハマグリや鯵の日干しの匂いがそこはかとなく漂っていて……(誉めているんですよ)。この親近感が彼女の最大の魅力です。 (―――あ、そういえば、「誘惑光線クラッ」→「もっと接近しましょ」というラインもこの二人にはあるな。) この二人、今でも仲が良いようですが、結婚後の芸能活動としては全く逆のベクトルに向かってしまいましたね。 秀美→あっさり引退、優→ママさんタレントとして大活躍。 でもって、この違いを、河合奈保子とその同期ライバル松田聖子とで当てはめてみると、ほとんど相似形。 奈保子→ひっそり引退、聖子→ママになってもアイドル稼業 ここに芸映とサン・ミュージックの素材選びの違いを見るのも一興かもしれません。 |
2004.06.06