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山崎ハコ 『人間まがい』

Jホラーアルバムの傑作

(1979.05.21/CA25A0028/キャニオン)

1.誰が呼ぶ 2.きょうだい心中 3.ムラサキの花 4.からす 5.呪い 6.人間まがい 7.暗闇 8.三つの花 9."地獄"〜心だけ愛して〜


70年代の女性フォーク歌手――いわゆる暗い唄歌いの中でいまいち受け付けないなぁ、と思っていたのが、山崎ハコだった。
中島みゆきや浅川マキ、森田童子、谷山浩子、などと比べると戦略性が希薄で、つまりはどの方向を目指しているのか、聞く者のどの部分に訴えようとしているのか、といった自己演出の部分が希薄で、 ただただ、生の感情をありったけ聞き手にぶつける歌がどうにも耳に痛かったのだ。 彼女の歌は、新鮮過ぎるぶつ切りのマグロの切り身のように舌に強く当たって風味を楽しめないなぁ、と思っていたのだ。 だって、タイトルからして「呪い」だ「人間まがい」だ「きょうだい心中」だ「『地獄』心だけ愛して」だ、と、思わず半歩引かざるを得ないようなタイトルなんだら仕方ないじゃないか。

――が、今、彼女の歌が効いてきている。この生っぽさが逆に良かったりするな、なんて。
これは、山崎ハコの更に上をいく無防備に感情吐露しまくりのナマモノ歌手、Coccoの出現で慣れたというのもあるんだろうな。 Coccoやハコの歌は今絞めたての死骸をその場で捌いて、ハイ生肉どうぞってくらいフレッシュ。 フレッシュ過ぎて、スーパーでラップに包まれた精肉品しか見ていない一般大衆にはほとんどスプラッタであったりするのですよ。



そうした彼女の持つおどろおどろしさ、不気味さ、という点で一番楽しめるアルバムはやはり『人間まがい』かなぁ。 先ほど挙げたタイトルだけで絶叫モノの名曲が並んでいる。

オープニングの「誰が呼ぶ」はいつものハコぐらいのレベルで対したことはないのだが、次の「きょうだい心中」でぶっ飛ぶ。 これは滋賀県に伝わる盆踊りの歌だというのだが、テーマは「兄妹相姦」。

舞台は京都の西陣町、兄のモンテンは妹のオキヨに恋をし、「わしの病気は一夜でなおる 二つ枕に三つ布団 一夜頼むぞ妹のオキヨ」と迫る。 そこでオキヨは「私には惚れた男がおります。その男を殺したのなら女房になりましょう」と約束をし、妹はその男に変装し、兄に殺されるというという、ああ、どろどろの愛憎劇。 これを身もだえするように声を絞り出すようにハコは歌うのですよ。こ、こわ―――。
ちなみにこの伝承歌に関して、もっと詳しく知りたい人は、久世光彦著「花迷宮」(新潮文庫)の「聖 しいちゃん」の章に詳しいのでそちらをどうぞ。

またA面最後の「からす」も強烈。 山奥の寒村を思わせるうらぶれた風の音で始まるこの歌、歌い出しハコの一声が「泣く子はどこじゃい カァ」。 さらにそれに答えるのが「さらっていこかい カァ」。……。 ほとんど、なまはげ、八つ墓村、姨捨山、楢山節考っていう、もうね、とんでもないです。
多分これは大分は日田での少女時代の影響なのかなぁ、山崎ハコにはどこか山岳民族的というか、山深い貧しい寒村のような因習深い陰気な不気味さがあって、この系譜として「さくら」「雪の道」といった曲があるけれども、これはほとんど決定打といっていいもので、 ラストの赤子の泣き声など、はっきりいってやりすぎですよ。いったい何を表現したいのか、と。どこへ行くつもりなのか、と。



そしてレコードを裏返すと、ここからはもう言葉もない。 まずは、彼女の代表作にまでなってしまった伝説の曲「呪い」。 いきなり、ゴツッ、ゴツッと木槌が何かを打ちつけるような音で始まり、そして「こ〜〜んこ〜〜ん、こ〜〜んこ〜〜ん、釘を刺す」と敢えて無機質な高音でハコは歌い始める。
「釘よ覚えろ 覚えろこの歌を」と念じながら釘を刺すのである。でもって、釘を打たれたわらの人形は血を流すのである。 もう、ごめなさ―――いといってひれ伏すしかないじゃないよぉ、怖すぎて。

続く「人間まがい」は浮遊霊の歌。
すねてこの世と別れてみたよ
あそこがどんなとこでもここよりいいと
空の上の扉は固く 私なんぞにゃ開けてはくれぬ
そんな馬鹿な 引き返せないよ
他の奴だけ いれといて
そういうわけで ここにいるの

フォロー不可能。どう見たって自殺して成仏できなかった幽霊の歌。 そんな幽霊になった彼女は「みんな私が見えないのかい 見向きもしないで」と愚痴ったり「安心しなよ 怖がらないでよ 幽霊じゃないよ」と語りかけます。 いや、あなたどう見たって幽霊ですってば。

次の「暗闇」もいきなり死んでいる。

ふと気づくと ここはどこ
何も見えない あまりに暗すぎて
どうしてこんなところにいるのか
明るいあの部屋にいたはずなのに
何か言おうとしても 声は出ずに
歩こうとしたら なんと手も足も出ない

そして、「三つの花」はほとんどスキャットで"うーーーあーーー"唸っているハコも怖いけれども、歌詞もまたこれだけなんだが、もうね。
白い花 生れた
赤い花 咲いた
黒い花 落ちた
不気味の一言としか……。最後「落ちた」といいきって時点で曲はカットアウト、まるで井戸の底のような水音が聞こえ、そしてラストは「『地獄』心だけ愛して」へと続く。 これはハコの歌う「堕ちていく ああ 堕ちてゆく」の部分がおどろおどろしく、まるで二人揃って愛欲の無間地獄にまっさかさまに堕ちるような不気味な歌で、もう、どうして欲しいのか、と。

もう、とにかく、なんか凄い。次から次とやってくる。続くんだ次から次へ、おどろの世界が続くんだ、という。いや、もうまともな言葉では表現できませんってば。 Jホラーのめくるめくワンダーランド。ディズニーランド状態。百鬼夜行のエレクトリカルパレード状態である。もう、わたしゃお腹いっぱいよ。 このノリに対抗できるのは三上寛しかない、わたしゃそう思いますよ。 これがCD化されていないのは、Jホラー界の損失です。はっきりいいきっちゃう。

ちなみに『人間まがい』に当たる作品は中島みゆきで言えば『生きていてもいいですか』、谷山浩子なら『鏡の中のあなたへ』、森田童子なら『狼少年』になります。怖いもの見たさのあなたはどうぞ。



と、このアルバムをある意味絶賛している私ですが、とはいえ、 今、私が一番いいなって思えるハコは、貞子なハコ――二日酔いの悪夢のようなハコではなく、「幻想旅行」の力強いハコ、「ごめんしてね」の優しいハコ、「男のウヰスキー」の艶っぽいハコ、「ヨコハマ」や「ララバイ横須賀」や「さよならの鐘」の自由と孤独の背中合わせに口笛吹くようなハコなんですけれどね。

ところでそんなハコさん、今は何をやっているかというと、一時は所属事務所が倒産して中華料理店の皿洗いのバイトをしたりと大変だったそうであるが―――いかにもなエピソードである、2、3年前スタジオミュ―ジシャンの安田裕美と結婚、いまでもポツリポツリと歌いつづけているらしい。 また彼女の盟友、石黒ケイ――桑田圭祐のまた従姉妹だそうで、もいまでは一児の母だという。

まったく関係ないですが、デビューアルバム『飛びます』(キャニオン版)の裏ジャケのブランコに乗っているハコは10代の頃の安室奈美恵にちょっと似ているかもと私は思ったりします。 機会があったらチェックしてみてくださいな。

2004.01.23

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