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メイン・インデックス歌謡曲の砦>中山美穂「エキゾティック」

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中山美穂 『エキゾティック』

名盤だが、番外編

(1986.12.18/キング/K32X-120)

1.炎の舞 2.ペニンシュラ・モーニング 3.黄金海岸 4.霧のケープコッド 5.WAKU WAKUさせて 6.スウェーデンの城 7.インカの秘宝 8.熱い夜 9.SWITCH ON 〜ハートのスイッチを押して〜 10.時の流れのように


ひとまず、売り出しに成功はしたが、そこから先の戦略が全く白紙だったと言うのが、1986年における中山美穂だったのではなかろうか。 勿論、おにゃん子旋風と言うアイドル界未曾有の事態が起こったと言うのもあろうが、やはり、スタッフが彼女の素材を把握しかねていたのだろう。シングルこそ「毎度お騒がせします=森まどか」のイメージの延長線上でそこそこの成功を収めていたが、形となるアルバムを出して一定の方向性を導き出すというところまではいたっていないようにみえる。 そこで、このアルバムの登場となる。



このアルバム「エキゾティック」はアルバム中全作品が作詞松本隆、作曲筒美京平、編曲船山基紀によるコンセプトアルバム。テーマは名の通り異国情緒で、「WakuWakuさせて」「Switch on ハートのスイッチを押して」以外はご当地ものと言っても差し支えない。 「黄金海岸」「霧のケープコッド」「インカの秘宝」「スウェーデンの城」と、タイトルだけで、気分は世界一周旅行になる作品になっている。
ちなみに、冬発売のアルバムであるにもかかわらず、歌の舞台は熱帯亜熱帯の地域が多い。これは前作『Sea Breeze』で角松敏生、井上大輔などの作家を起用し、擬似杏里系リゾートサウンドとして一定の成功をスタッフが感じたのと、また、こんなことをいっては実も蓋もないが、彼女の肌が地黒でイメージが南国に行きやすいからだろうか。
実際「スウェーデンの城」などは歌詞を見るに竹宮恵子や萩尾望都の漫画のような美少年が出てき、字面でも「林檎酒」「素肌はばらの色」「月明かりに薄い絹の服」「森の奥の古い城」「寄宿舎」「天使の爪」「金ボタン青いブレザー半ズボン」(しかしこう書いてみると、ある意味松本隆満載のガジェットだな)と少女趣味なミスティフィケーションてんこもりの作品なのだが、彼女はこうした男性のタイプが好みでないのかどうなのかわからないが、歌詞の気合いのわりには成功していない。冬場面や北国はこの時点の中山には似合わない。

筒美京平はジュディ・オングの「魅せられて」(作詞・阿木耀子)をはじめ、前々年の同時期に発売した河合奈保子のアルバム『さよなら物語』(全作詞・売野雅勇)などこの手の異国情緒モノでは一定の実績があったが、松本隆は確か、佐藤隆の初期アルバム『I've been walkin'』『Auban- Auri』ぐらいのもので、意外と松本隆にとって異国情緒モノは珍しいジャンルだったと思われる。 しかしそこは松本隆。阿木耀子の神秘主義を灰汁抜きしたような仕上りになっている。

――話はずれるが松本隆は中山美穂作品では阿木耀子をかなり意識して詩作しているように感じる。このアルバムも阿木の神秘・異国モノをうまく松本的に翻訳しているし、また、中山の松本作シングル9作も百恵のツッパリモノの松本的翻訳とみることがはできる。 阿木的作風は80年代、売野雅勇の手によってポップ化されて、中森明菜、チェッカーズ作品で人口に膾炙されていった。一方80年代の松本隆はというと、松田聖子、斉藤由貴と、文芸乙女チック路線真っ只中であった。 しかし、松本隆にもこうした作品に対する色気があったのだろうか。 中山作品では松本隆本来の持ち味である、「品の良さ」「少女趣味」「文学的」はなりをひそめ、あくまで「お嬢でハスっぱ」を貫き通している。



閑話休題。で、このアルバム。もちろん作品の全体としては大成功ではあるのだが、ではこれを契機に歌手として安定したひとつの方向性へと歌手中山美穂は進むようになったか、というとそうではないように見える。 今の時点で考えるとこれら諸作は、やはり、背伸びの感はぬぐえないし、だいたい本人の素質と噛み合っていない。
例えば「ペニンシュラ・モーニング」。
頃は前世紀初頭、大戦前夜の植民地でのイギリスとロシアのスパイの諜報合戦 が背景のラブソング。
あなたはイギリスの諜報部員  私はロシアの諜報部員
ダイヤの髪飾りには無線がしこんであるの
はじめは芝居で途中から本気なの 残酷なゲームだわ

植民地風のホテル 水入らずの朝にふたり
フォーチュンクッキー割って未来占ってもいいわ
凶なら弾丸をあげる

(作詞 松本隆/作曲 筒美京平)


こんな歌を17の娘が特に思い入れもなにも、という感じでお仕事的に歌う。 他の曲もまぁ、そんな感じで、 ケープコッドの夜明けをテラスで眺めながら「私の憂鬱を風よ吹き飛ばして」なんてすかしたり、スウェーデンの城で「お姉さんの手で天国の扉につれてってあげる」などと美少年を誘惑したり、カリブの島に飛んでは「こんな夜には誰かがほしい」なんつって真夜中に盛り場に繰り出して、「小麦色に磨き上げたの足を広げれば 男たちの無数の眼が肌をくすぐるの」と、ビッチぶりを披露し、 かと思ったら、インカ帝国の秘宝をさがすぞ、なんてインディージョーンズばりに密林の中を這う赤い河を遡行したり、最後はインドで、母なるガンジスに抱かれながら「運命にさからいもせずあなたのそばに身を横たえる」って……。

もうね、嘘だろ、と。
ありえないって。
どうみたって、完全に絵空事の世界。

曲自体の完成度の高さというのは認めざるを得ない。一つの閉じられた世界あると思う。 コンセプトアルバムとしてみた時、さすがの松本-筒美コンビと唸らずにはいられない。 が、これらの作品が中山美穂のいかなる部分と繋がっているのかというと疑問に思わざるを得ない。 ちなみに――、この無理無理な異国路線は「生意気」の延長から来たものだろう。「生意気」はシンガポールの船が見える異国の港町の丘の上で恋人の写真をちぎってひとり優雅に泣く美穂という、お前、15歳だろとつっこまずにはいられない内容の歌。

もっと端的にいえばこのアルバムの楽曲は結果松本隆、筒美京平の手柄に帰してしまって、演者である中山美穂の手柄には決してなっていないのだ。 アイドルの楽曲というのは、それでは、いけないとわたしは思う。 全ての魅力が、本人に集約するようでなくては、アイドルソングとしては成功とはいえないんじゃないかなぁ。 本人がどう思ってようが知らないが、こういったアルバムを作るからには本当に本人があたかもそうであるかのように見えてなくてはいけないのでは、と。 それにしてはこの時期の中山美穂はまだ力量不足であるし、楽曲以外の部分での演出と合致していない。

小室哲哉、佐藤健、久保田利伸、epo、などを作家陣に迎えた次アルバム「One And Only」と比べるとそれは如実に感じる。 「One And Only」は「歌を歌うのが楽しくてたまらない」と本人の声が聞こえるほど、中山の声はハイテンションで、躍動感に満ちている。 ここではじめてアルバムを彼女の歌手としての方向性が生まれた、と私は判断する。 この流れから角松敏生とのアルバム『Catch the nite』、更にCindyと出会いブラックミュージックへの傾倒のきっかけとなる『Mind Game』とつながるのでは、と。

結論、『エキゾティック』は中山美穂という歌手の歴史から見れば番外編的な、試行錯誤の時期の異端のアルバムである。 ……とはいえ、しつこいようだが、このアルバム、名盤ということには変わりはない。 また、ひろーーーい視野で見ればスチールドラムを使った「熱い夜」はもろカリプソの「50/50」につながったともいえなくもないし、また91年のアルバム『De eaya』とシングル「Rosa」で見せるエスノ、ラテン系はこのアルバム経由といえなくもない。本当にかなーーーり広い視野で見ればだけど。

2002.09.14

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