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中森明菜 Special Live "Empress"

40代の"明菜のはじめの一歩"

(2005.07.07〜17/品川プリンスホテル CLUB Ex)
1. 私は風 2. 傘がない 3. 別れの予感 4. アデュー 5. 踊り子 6. 接吻 7. アサイラム 8. サザン・ウィンド 9. 窓 10. リバーサイド・ホテル 11. 飾りじゃないのよ涙は 12. 赤い花


中森明菜のカバーアルバムシリーズ『歌姫』の完結と、『歌姫』シリーズをすべて収録したBOXセットの発売を記念したスペシャルライブ"Empress"が、2005年七月に行われた。 今回は円形のステージに収容人数が数百人という小屋の特徴もあいまって独特のライブであろうと、想像していた。



コンサート一曲目は「私は風」ではじまった。――と、淡々と書いていこうと思ったが、やあ、びっくりした。いきなりラウドなギターとオルガンの音、ハードロックバージョンの「私は風」。これはカルメンマキ&OZのファーストアルバムのテイクに一番近いアレンジかな。 もう、ぐわーーーっときた。イントロから血が沸きあがってしまった。と。や、大好きなんですよ、「私は風」。明菜がカバーする前から大好きで、前々から一度明菜に原アレンジに近いバージョンで歌ってほしいなぁ、と思っていたけれども、ここで一発目に来るとはまさか思わなかった。
もうね、立ち上がってヘッドバンキングしながら「明菜ー―っ」って絶叫しようと思ったら……、って周りのみなさま?アレ?皆さん行儀良くお座りになって微動だにせず、明菜様を凝視してらっしゃる?ちょっと不思議な光景に思わず周りを見渡してしまった。
いやぁー―まあ、確かに、あんまり下品な行動のできない場所と時間帯ですが、ハードロックを全員着席で体でリズムとる人すらいないライブというのも、今日びの日本でこのライブくらいなのではと、ちょっと驚いてしまった。明菜の今のファン層ってこういう人たちなのね。 や、なんかわたしはもう血が騒いで仕方なかった。あのギタープレイでぐわー―っと来ないわけがないという。マジ燃える。 座りながら、ひっそり頭を振ったり、足で腰でリズムをとったり、なぜか入っていなかったコーラスの「トゥットゥトトゥウトゥ」(――原アレンジにこれは重要っしょ)をつぶやいたり、という私は会場で浮いていたんだろうなぁ……。
明菜のこのハードバージョンもやっぱりなかなかで良かったのだけれども、もっとあられもなく歌ってよかったような気がするなぁ。もっとウアアァアーーーとぶち切れで叫んでいいよ、スキャットとかももっとやりすぎなくらい逝っちゃっていいよ、と。 マキ&OZの『LIVE』に入っている「私は風」(17分に及ぶ長大曲になっている)の方を一度聞いてみたらいいと思う。これは名唱。て、まぁ、ロックって客側がもっとわかりやすくノってやらないと舞台の上の人間はただの晒し者になっちゃうところがあるからなぁ、あの会場の空気だとアレが限度だったのかも。



――という客席からして不思議な空気感のライブであったのだが、バンドはキーボードの上杉洋史氏(――今回の曲のアレンジも担当しているようだ)、とギターの日高氏のみという変則、アレンジは「赤い花」以外は全てCD音源と大きく装いを変えて、 さらに歌う明菜ずっと椅子に凭れながらの歌唱、舞台は静かにくるくる回り、明菜も椅子の上でくるくる回り、というなんだか色々と不思議なライブであった (―――しかし、アレだな、明菜が向いた方向の客席から常に「あ、明菜こっち向いた」という無邪気な喜悦の空気がなんとなく漂っていたのが微妙におかしかった。ま、私も明菜が自分に向かって真正面に向いていると嬉しかったのですが)。

アレンジの方向としては打ち込みでジャジーって感じなのかな。「歌姫」の千住明の平明なオーケストレーションもいいけれども、ライブとしてこういう変り種をやるのも、いいかもしれない。ちょっといじりすぎているよなぁ、という点もいくつかあったけれども、一回限りのライブならば面白いかな。
明菜の歌唱は磐石で不安材料はほとんどなし。ちょっと声のリバーブがきつ過ぎたような気がするなぁ。カラオケボックスみたい、といったらひどい言い方かもしれないけれども、 マイク使わなくっても声が届くくらいの小さな会場なのだから、もっと、生々しく、明菜の素の声がそのまま聞ける感じにしたらもっといいんじゃないかなぁ。

今回のライブの白眉と感じたのは「接吻」〜「アサイラム」〜「サザン・ウィンド」のパート。 全てボサノバアレンジに仕立て上げていたのだが、一瞬ここが日本で、今梅雨の時期であるということを忘れるかのよう。ほどよく乾いていて、ほどよく軽やかで、シックな夏の夜というか、なるほど今回のライブのコンセプトはここだな、という大人の遊び心が感じられた。
「接吻」は原曲はオリジナルラブのものであるが、今や中島美嘉のバージョンが有名、明菜も中島バージョンを意識しているように聞こえた。中島の歌唱も軽やかでセクシーでいいのだけれども、 明菜はさらに軽い。鼻歌のように羽根のようにふわっふわっと歌って、それでいて情感がひたひた寄せてくる。どっちも好きだなあ、私は。 「アサイラム」「サザン・ウインド」は84年作品(――明菜の中でこの2曲はコンボなのかなぁ……)。これもまた水彩画のように軽いタッチだなぁ。レコードの10代のギラギラしてびーーんと張ったボーカルも捨てがたいけれども、この油っ気の抜けた歌唱もセクシー。 年とともに変化しながらも、それでいて自分らしさを失っていない歌手だなぁ、と感心。どう歌っても明菜は明菜なんだなぁ。 ただ、「アサイラム」はオリジナルキーにこだわったせいか、中山美穂のようなヘタウマの領域に片足突っ込んでしまっているんでは、とちょっと思ったけれども、ま、とはいえ私的には無問題。



後半戦もつつがなく進み、「リバーサイドホテル」(――品川プリンスホテルはリバーサイドなので、セットリストに入れたのだそうだ)にやっぱり井上陽水と中森明菜の相性はばっちりだなあと感心し、 「飾りじゃないのよ涙は」でいきなり会場から起こった手拍子にずっこけ(――や、アレンジ変えているので、普通ならイントロでは気づかないはずなのに、唐突に湧きおこったので、不覚にもずっこけてしまった。もしかして常連組ほとんど?とか、それにしてもなんかいきなり演芸会っぽくなったな、とか)、MCの明菜の陽水の物真似ってどうよ、と思いながら ラスト『赤い花』となったのだが、はっきりいって、驚いた。
「赤い花」は今回のライブのどこかで歌うだろうなぁと、あらかじめ予測したいたので、セットリストに入っていることにさほど驚きはなかったのだが、実際聞いてみると、度肝を抜かれた。

明菜は全身から声を搾り出すように歌っていた。椅子の上で、頭をうち振るい、髪を乱し、身もだえ、これ以上ないという苦悶の表情を浮かべながら、明菜は歌っていた。 身も世もなく歌う、というのはこういうことだろう、という凄まじさがあった。 彼女の目にはもう舞台も客席も、自分すらも見えていなかったのではなかろうか。最後、椅子からずり落ち、それでもマイクを離さず、座り込み、這いつくばるような姿勢で絶唱する姿に、思わず寒気がした。
あっけに取られるままに曲は終わり、明菜は舞台から去り、ミュージシャンたちも帰り、アンコールもなくライブは終わった。 大きな感情の塊をぽんっといきなり投げ渡されて、思わずはっとして振り向いたものの、もうそこに姿はなくそれっきりという、聞き手の所在をなくすような、唐突な幕引きだった。



ひとまず、今回のライブの形態は成功なのではないかな、とわたしは思う。 楽曲にもアレンジにも、またパフォーマンスにもライブでしか見れないものというのがそこにはあったし、 そこにこれからの明菜の可能性というのも散見された。
明菜はこれからは暗黒面の歌姫であってかまわないとわたしは思う。不機嫌にすら見える冷たい表情も、すげないトークも、それでいいし(――というか私にとっての明菜って歌番組の明菜であって、元々こういうイメージなんだよね)、 椅子に座っての歌唱というスタイルも、他のファンにとってどれだけ受け入れられるものは私はわからないが、 ひとつの形としてこれもアリかなあ、と私は感じた。 これは、もともと足が弱い彼女をフォローするためという一面もあるのだろうが、とはいえ、なんというか、陰のイメージに椅子ってあうんじゃないかなあ。と。
アームチェア―・ディテクティブ、といういい方があるように、チェア―シンガーというのがあってもいいかなあ、と。密室で椅子に座って淡々と誰に歌うでもなく歌う自閉的な妖しい歌姫というのも、ひとりくらいいてもいいのでは、と。

ただ、こういったスタイルの公演は長く続けて定着させて初めて意味のあるものだと思うので、 全17公演なんてものでなく、全国ツアーやディナーショーの合間であったり、それこそ毎週末行うみたいなノリで、「ここに来ると明菜が聞ける」というスタイルになったら一番いいと思う。
そしてこなれてきたら、もっとコンセプトを明確に――今回はハードロックでライブハウス感覚、今回はジャジーで物憂いクラブ歌手のように、今回はエスニックで異国の踊り娘のように、今回はオールリクエストで「清瀬の明菜ちゃん」、なぁんて色々と一定のタームを置いて変えてみたり、 また、明菜だけでなく、ゲストで誰かを呼ぶというのもあってもいよなぁ。
今まではわりとコンサートのメンバーが固定していなくて、ライブのセットリストもそういう遊びができづらい感じがあったけれども、 2002年ツアー以来、明菜のステージには上杉洋史氏がしっかりついているし、そろそろそういった冒険もできるんじゃないかなぁ、と勝手に私は想像している。

今回のライブは名実ともに40代の中森明菜の"はじめの一歩"だと私は思っている。 20〜30代ととかく波乱万丈だった彼女だけれども、ようやっとシンプルに自分の歌を聞かせる場を作ることができたか、な、という印象をもった。 この空気を壊さないで、40代を走ってほしい。



ちょっと蛇足のすごーーくどうでもいい話。
97年のツアー再開以来、明菜のコンサートというのは、まあ、東京近郊の公演に行ったことのある人なら知っていると思うのだが、MCのあいだ、ある特定の熱狂的なファンの人が何度も大声で明菜に話し掛け(―――その模様はしっかりライブビデオなどに収められてしまったりもする)、 明菜もそういったちょっと困ったチャンなファンに対して馬鹿丁寧に対応して、間延びしたトークになったりというのが多かったのだが(――大ホールの後ろの席では白けていることもままあった)、 今回は珍しくそのあたりのけじめがしっかりしていて、MCも好感が持てた。「あ、明菜、ちゃんと自覚したな」と。
トークの内容も客からのつまらんカラミを拒むようなシリアスなものが多かったし(――テレサ・テンとの思い出や村下孝蔵や井上陽水へのリスペクトなどなど)、 声のトーンも昔の歌番組の歌前トークの時のような、地声の低く落ち着いた声。 実際、始まってしばらくは水を打ったように静かなMCだった。
途中やはりいつものようにやたら声をかけているファンが出てきたが、それも「(インナーの)青いスカートよく見せてよ」の声に、暗く沈んだ声で「これは下着です」とざくっと切り返したり(――冷たくいなされてファンの人、ちょっと可哀相そう。これじゃもう話かけないだろうな、と思ったらそれにもめげずに話しかけていたから驚いた。いやぁ……、凄いなぁ)などなど、非常にお上手な客捌きでございました。
ファンクラブ向けのコンサートとか、そういうものでない限り、MCの方向はこれで正解だと私は思うぞ。

2005.07.14
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