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尾鮭あさみ

「運命のミストレス」


やっぱり素敵でした

(角川書店/2004.9)


なぜか唐突に復活のダダ&一也シリーズ。 ブランクを感じさせないハイテンションやおいストーリー。
以前「トラブルフィッシュ」の感想文で、わりときついこと書いてしまった私だけれども、 久々に読んだダダ&一也のサーモンはなんだかとっても面白かった。 こりゃどうよと思い始めた数年前よりもまた少し書き方が丁寧に戻ったような気がするし。こりゃ、同人誌も買わなきゃダメかなぁ。やっぱ。
相変わらず馬鹿馬鹿しくも息の合ったテンポの早い台詞回しなどは絶妙。


「夏休みこそ鴨川べりで私の手作りのお弁当を食べていただいたり、クーラー嫌いな一也さまをこの部屋でこの部屋で一晩中パタパタしてさし上げたいなぁ〜って、新しいウチワも買ったのにぃ……」
「きさま、究極の近場好きだな ! 俺は旅をしたい気分だ」
とか
「ありがとう、みなさん ! 愛する人の立派な下僕になれる素質がありますよ。帰りはお気をつけて。さようなら ! 」

とか、無条件で笑える。他、一也がいつも肌身はなさずもっている粉末だしの素そっくりの「携帯呪殺パック」とか、こういう小ネタはやっぱりサーモンだよね。 あとあとあと。いつもは警戒心が人一倍強いのに「綺麗なお風呂」にだけは弱い一也さま萌えッッ。おまえは静香ちゃんかっつーの。


それにしても、すごいよなぁ、お百、偉いよ。いくら惚れた弱みとはいえ、普通ここまで出来ないよなぁ。と今回は妙に己斐百太郎に感心してしまった私。 「ルビー文庫」でこのシリーズが刊行されていた昔に読んだ時はただの「幸せな変態さん」にしか見えなかった百タロが、なぜか今見ると、とても雄雄しくみえる。 ここまで相手のために身を投げ出せないよなぁ、こんな甲斐性俺にはないよなぁ、と無駄に自分と引き比べてしまった。
気はやさしくて力持ち。100人乗っても大丈夫のイナバ物置並の盤石さに感心してしまう。ほとんど一家に一台、百太郎って感じ。
実際今回は今までにもなく百太郎がカッコよくかかれていたような気がする。2人はまさしくはねっかえりの姫君と忠実な騎士という感じ。一也くんが危機の時には必ず現れる呑気なホワイトナイト、百太郎。と、そんなわけでかなり進展ありでラブ度高めで幸せ度高め。ただ相変わらず一也くんはやっぱり硝子細工系で頑なめ。
「あんた、いつでも自分自分で、たまには相手のことも考えてあげないと、捨てられるわよ」
一也くんに出会ったならこんな美川憲一みたいな忠告をしてみよう。って、んなこといっても捨てられることなんてないんですけれどね。


それにしても受けの子の天下無敵のわがままっぷりが全肯定される世界ってみていてなんだか心地いいのはなぜ。 これってもしかしてキャンディ・キャンディー的な快楽と同質??


このお百と一也の関係は「今はなんとなくうまくいっているけれども、この関係がいつまで続くがわからない」という非常にありふれたある意味普遍的な恋愛の懊悩がどさっと頭に乗っかっている哲ダダのお2人さんと見事に好対照。
哲ダダのお2人の関係はドメスティクな現実的な方向のベクトルに向かっている。せんじつめればこの2人って、いわゆる現実にいるゲイの普通のカップルの世界と同じだと思う。であるからそこから導き出される話はやはり現実的になる。 それに比べ、お百と一也はまず、この二人が壊れるなどということは作者も読者も誰もが想像だに出来ない。話も現実性をあっけなく超越して、黒魔術がどうとか、オメガの門がどうとか、時間軸のない物語の世界、ファンタジーの世界に突入していく。

現実性を目指す近年の「やおい」というものに疑いの目を持っている私としては、是非ともお百と一也くんにがんばってもらいたいです。 って、センシティブな哲ダダもいいけれどね。ただ、この2人はもうエンディングを書いてあげてもいいような気がする。
現実にはエンディングはないんだから、こいつらのエンディングもない、と作者が思っているならそれまでですが、いつまでもイかずにだらだら続ける中年のセックスのようにだらだら掌編で続けるより、いったん綺麗にケリをつけて完全にお百と一也の脇に回るというのも手かと。

それにしても、このシリーズって頭んなかでは完全アニメなんだよぁ。っていうかここまでアニメ映えする小説というのも珍しい。 どっかがOAVでもいいからアニメ化してくんないかなぁ。ってやおいもののアニメって少ないんだよなぁ。じゃ、せめて漫画化を。 西炯子の絵で見たい見たい見たいっつーのッッ。

って、それよりもまず、とにかく、このシリーズは続けてくださいね、尾鮭さんッッ。できれば商業ベースで。


2004.11.27
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