■ 楽曲提供作家によるセルフカバー、あるいは原曲作品
中森明菜の作品でひとつ特徴的なことなのだが、楽曲提供者によるカバー作品、あるいは明菜の作品自体がそもそもカバー、というものがデビュー時からとても多い。というわけで、それらを表にしてみた。 もちろん全ての楽曲を聞いているわけではないし、楽曲収録アルバムもあやしいものがあるが、一応調べがついたものはここに掲載している。間違いやデータ不備の部分など、気がついた点があるかたは是非ご指摘していただきたい。 明菜がカバーしたとみられるものは、カバーアルバムシリーズ『歌姫』はもちろん(――これは今回は省いた)「難破船」「AL-MAUJ」「初めて出逢った日のように」の3作。 一方、ほぼ同時期のリリースで「競作」と受けとっていいだろう作品は「白い迷い」、「飾りじゃないのよ涙は」、「二人静」、「月華」(―――「初めて出逢った日のように」も日本盤のリリースを見る限りだと競作の範疇かもしれない)。 他の作品は全て、楽曲提供者のセルフカバーということになる。 また、タイトル・詞の一部をかえている曲も散見される。「AL-MAUJ」―「デラシネ」、「Star Pilot」―「Sky Pilot」はタイトルと共に女性視点の詞から男性視点の詞へと変更している。「SOLITUDE」―「Don't Open Up To Strangers」はタケカワユキヒデらしく日本語詞を英語詞に変えている。「二人静」―「天河伝説殺人事件」はイントロの科白の有る無しのみの違いだ。ちなみに松岡直也の「ミ・アモーレ」はもちろんインストゥルメンタル。これってカラオケ?といえなくもない。 個人的に好きなのは久石譲編曲による井上陽水の「飾りじゃないのよ涙は」、ポールモーリア編曲の来生たかおの「白い迷い」あたりかな。 ■ 中森明菜歌唱曲のカバー作品
こちらはいわゆる普通のカバー作品。以前は松田聖子・山口百恵あたりと比べると中森明菜カバーというのはあまり多くなかったけれども、ゼロ年代に入っての邦楽カバーブームに乗る形で一気に増えている。実力派のベテランシンガーにロック系アーティスト、アニメのキャラクターソングなどなど実に多種多彩だ。 その中でダントツに多いのが「飾りじゃないのよ涙は」と「駅」のカバーだ。「駅」は以前は演歌歌手によるカバーが目立ったが――演歌界はヒット曲を共有財産化する傾向が強いけれども、「駅」はその枠内にはいったのだろう――これは中森明菜の功績というよりも、セルフカバーした竹内まりやに拠るところが大きいんじゃないかな。中森版と比べて竹内版の「駅」はアレンジ・歌唱ともにかなりドメスチックかつドラマチックな歌謡曲になっているしね。最近は布施明などのボーカル力の高いポップス系シンガーのカバーも目立っている。 一方「飾りじゃないのよ涙は」は企画色の強いカバーとリスペクト色の強いカバーの両極端に分かれている感じ。吉川晃司の歌う「飾り〜」は彼特有の口先オペラ歌唱が笑える。JAZZBILLYは明菜とも縁のある元MAGICの上澤津孝と山口憲一の新バンド。ジュリーの「カサブランカ・ダンディー」など共に収録されている。あぁ、これ聞いてみてぇなぁ(――さらにこのふたりは、wfaceなるユニット名で「TOKYO ROSE」のセルフカバーもしている)。 最近多くなりつつあるのが「スローモーション」「セカンドラブ」の来生たかお作曲作品のカバー、普遍性があっていまだ鮮度の高い彼のメロディーは昨今の邦楽カバーにはうってつけなのだろう。 意外なのがあがた森魚の「禁区」、これがいいんだ。タンゴや戦前歌謡の再現にこだわっていた彼らしく、激情とロマンの香りただよう一品になっている。桃井かおりはなにを歌ってもだるそうな、世の中馬鹿ばっかで疲れてそうな感じで素敵です。彼女が歌えば「難破船」もそんなに可哀想じゃない。 全体的にアイドル時代の作品のカバーが多く、「DESIRE」以降のセルフプロデュース開始後の、中森明菜の個性と人馬一体となった作品のカバーは避けられがちになっている。 ■ すべて中森明菜楽曲のカバーアルバム
90年代初頭、A.S.A.Pなるグループがユーミンの楽曲を英語カバーして、30万枚のアルバムヒットを飛ばしたりと、ちょっとした邦楽の英語カバーブームがあった。ノーランズが「DESIRE」の英語カバーを吹きこんだのもその時期。で、そんな折に出されたアルバムがこれ。Part 1のボーカルがPATTY LUND、Part2がシルヴィア、アレンジは幾見雅博という布陣。ハイエナジーなユーロビートアレンジで中森明菜の楽曲が御色直しされとります。 まぁ率直な意見をいわせていただければ当時よくあった風で他愛のない出来。歌謡曲にも洋楽にもなれずあからさまなバッタモノ臭がぷんぷんとしてますです。とはいえ、これ、ちょうど明菜の歌手休業時に出されたので買っちゃったんだよなあ、Part1は。微かに期待はしたんだけれども、やっぱりダメだった。時期が時期だけに私のようにうっかり手にしたファンも結構いるんじゃないかなぁ。ちなみにpart 1 の英語詞はゴダイゴで有名な奈良橋陽子さん。 あと、ビクターから「スローモーション〜セカンド・ラブ」なるアルバム(――アーティストは LOVER’S CONCERTO)なるものも出ているがこれは未確認。 |